バイオ燃料を使って自動車レースをしている人たちを取材した。

マツダのレース活動を紹介する記事のトッフ画像

撮影協力:マツダ株式会社

はじめに

一時期、これからの自動車は全て電気自動車になる、みたいな雰囲気があった。ただ、発電所などを取材したことのある自分としては、その流れに、ものすごく違和感を感じていた。電気をどうやって作るのかって話が、抜け落ちているからだ。実際、資源エネルギー庁のウェブサイトによると、水力を含んだ再生可能エネルギーの割合が約20%、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の割合が約76%だ。言い換えれば、電気の7割以上を、輸入に頼っているってことだ。そんな状態で電気自動車ばっかりになったらどうなるのか…。そんなことを考えながらネット上をうろうろしていたら、バイオ燃料を使って自動車レースをしている人たちがいるのを見つけたので、取材を申し込んでみた。

取材を受け入れてくれたのは、マツダ株式会社さん。そう、自動車メーカーのマツダさんだ。マツダさんは、2021年から、バイオディーゼル燃料を使って自動車レースに参加している。バイオディーゼル燃料っていうのは、一般的に植物から作ったものや食用油の廃油から作ったものを指すんだけど、今回の取材で使われているのは、「藻」から作られた燃料だ。取材させてもらったレースは、スーパー耐久シリーズ第5戦、鈴鹿サーキット。このスーパー耐久シリーズは、元々市販車を改造した車両のみで行われていたレースで、メーカーの参加はできなかったのだが、2021年からメーカーであっても技術開発の目的であれば参加できるようになった。このレースに参加する車両は、8クラスに分かれていて、スピードも大きさも違う様々な車が一度に走る。不思議な感じのレースだ。

1日目:フリー走行と予選

今回の取材では、マツダさんの許可以外に、鈴鹿サーキットさんからも許可をもらわなければいけなかった。レース中にピットなどの立入禁止エリアで撮影をするためには、「メディアパス」という許可証が必要なのだ。このメディアパスには、3種類あって、僕が発行してもらったのは一番下のランク。立入禁止エリアの中では、ピットとパドックにしか入れない。車が走ってくるピットレーンやコース脇などに行くのは、上位のメディアパスが必要で、それには過去の取材実績が求められる。ということで、雑誌に載ってるような写真は出てこないよ。

自動車レースの予選
バイオ燃料を注入している様子。
ピットからの出し入れは、なぜか人力。

現地に着いて、まず始まったのは、フリー走行。車両やコースの状態を確認するための時間だ。ピット作業もあり、今回の取材のポイントでもある、バイオ燃料の注入も行われていた。この燃料はユーグレナ社製で、先もちょっと触れたように藻から出来ている。なお、燃料を入れる時は、消火器を構えている人が必要。また、ピット作業をする人は、耐火服にフルフェイスのヘルメットという服装が義務付けられている。

ピット内。広角レンズで撮っているので、目で見るともっと狭く感じる。
ホールアーチ内の部品を交換しているようだった。
空気圧のチェック。普通の車よりかなり低い空気圧だ。
車の燃費などを検証している様子。

フリー走行の後は、予選。つまり、スタート時の順番を決めるためのタイムアタックの時間だ。この辺りから、パドック内の緊張感が高まってきて、狭いピット内での撮影は、お預けとなってしまった。

コース脇のサインエリア前を通過する55号車「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept」

そうそう、今回の主役は、上の写真に写っている55号車「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept」だ。MAZDA3を改造した車で、元々のデザインがかっこいいのに、オーバーフェンダーなどが付いて、さらにかっこよくなってる。タイムアタックは、20分ずつ、計4回。各チームに3〜4人のドライバーがいるので、時間を区切って走る。タイムアタックが終われば、1日目が終了だ。

自動車レースの予選、最終回
タイムアタックの4回目。コースに出てゆく各車。時間は4時40分ごろだったので、天気の悪さもあって、かなり暗くなっていた。

2日目:レース本番とインタビュー

レースに関わっている人へのインタビュー

レースの様子を伝える前に、レースに関わる仕事やレースに参加する意義などをインタビューさせてもらったので、その内容を紹介しておこう。インタビューに応えてくれたのは、マツダのファクトリーモータースポーツ推進部の部長、佐々木健二さん(58歳)だ。

インタビューに答えてくれた佐々木さん。

佐々木さんの仕事内容とは?

「レースの運営です。具体的には、チームづくりや車の準備です。チームには、40〜50人くらいの人が参加しますので、仕事がスムーズに回るようにサポートをしています。チームの中は、ほとんどがマツダの社員ですが、55号車のメカニックは、広島マツダ(販売店)の方に協力していただいています。」

55号車について

「55号車は、市販車ではありません。市販車は、1.5リットルか1.8リットルのエンジンを積んでいますが、これには、2.2リットルのディーゼルエンジンを積んでいます。また、次世代の量産に関わる技術、例えばピストンだったり、システムだったりを、載せています。燃料は、ユーグレナさんのバイオディーゼル燃料を使っています。」

マツダのバイオディーゼルエンジン
55号車のエンジンルーム。普通の車と比べると、みっちり詰まっている感じがする。

マツダさんが、このレースに参加している意義とは?

「実は、バイオ燃料は、エンジンに特別な改良をしなくても使えます。もちろん、レースをする上では、微妙な調整をしますが、それは、限界領域の話ですので、普通に走る分には、差がわからない程度です。ただ、使い続けていてもエンジンに問題がないかどうかは、検証してみなければ分かりません。だからレースの場を使って検証しています。また、市販車の開発でテストをする時には、高速走行のテストもするのですが、あくまで高速道路など走った場合を想定していますので、そんなに長時間のテストをするわけではありません。アウトバーン(ドイツにある速度無制限の道路)でも、長時間、最高速で走るわけではないですから。そういった意味でも、レースで5時間、全力で走らせる機会というのは重要なのです。また、私は開発にずっといましたので、レースで得られた知見を、量産車に活かすべきかどうかの判断もできます。活かせるものがあれば、開発にフィードバックしています。」

レーシングカーの給油口周り
燃料を注入するところは、こんな感じ。

マツダさんは、どんな車づくりを目指しているのか。

「お使いいただく方々の選択肢を増やしたいと思っています。例えば、ディーゼルエンジンは、寒冷地に強い特性を持っています。また、内燃機関が持つ、車を操ることの楽しさも知っていただきたいと思っていますので、潤滑油も含めて内燃機関をクリーンなものにする方法を考えています。」

レース活動のやりがいや楽しさとは?

「開発などですと2年とか3年の時間をかけて、多くの人と関わりながら進むんですけど、レースって短期間の中で集中的に車を仕上げて、5時間という時間の中で、トラブルを含めて全部瞬間的に対応して行かなければなりません。何かあった時に、ガッと集中してやる瞬発力のようなものが必要で、アドレナリンが出るような感覚がしてワクワクするんだと思います。」

レースの方は、どうなった?

インタビューをしたのは、一般の人がサーキット内やピット周辺を見学できる「ピットウォーク」と呼ばれる時間だったのだが、その間は雨が降っていた。天気予報にはなかった雨だったので、楽しそうな雰囲気とは裏腹に、ピットの中ではタイヤをレインタイヤにすべきかどうかで、てんやわんや。

マツダのレーシングドライバーの皆さん
55号車のドライバーの皆さん。左から寺川和紘さん、前田育男さん、関豊さん、井尻薫さん。前田さんはマツダの役員であり、このチームの責任者。関さんは、開発部門の人だけど、レースに参加している。
スターティンググリッドに並んだレーシングカー

雨が止んで、コース上に出て来た各車両。このレースは、タイム順に並び、ペースカーの後ろを一周走った後で、スタートする。後で知ったんだけど、グリッドに並んでしばらくの間は、一般の人でも間近で見学できるみたいだね。

スタートした55号車。
1回目のピット作業。青いベストを着ているのは、僕より上位の取材パスを持っている人。
ピットアウトして行くマツダのバイオコンセプト号
ピットレーンを走る時には、速度が決められていて、スピード違反をすると減点だ。コース上でも事故などで赤旗が出ている時は、追い越し禁止や速度の制限が掛かる。
サインエリア前を通過するMAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept
MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept
MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept
MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept

こんな感じで5時間走るんだけど、レースの撮影なんて初めてなもんだから、上手く撮れない(涙)いろいろ試しているうちに、あっという間に5時間が経ってしまった。コース脇に出られる条件だったとしても、そんな所に行っている余裕は、全くない。何が上手くゆかないって、シャッタースピードを早くすれば、カチッとした写真になるんだけど、止まってるみたいになっちゃう。シャッタースピードを遅くして流し撮りをすると、躍動感は出るけどブレブレになってしまう。いや〜、難しい。望遠レンズで、もっと躍動感を出したい!なんて思っているうちに、レース終了。

おわりに

全く知らない世界を知るのって、すっごく楽しい。映画やテレビでしか見たことのない世界が、目の前にある不思議。そして、何よりエンジンの音! レース用の車なので、結構な音で走る。街中だったらうるさいだけだけど、ここでは、なぜかワクワクしてくる。マツダさんには、ぜひ、内燃機関を使った車でSDGsを目指していただきたい。

写真と文、西澤丞。取材は、2024年9月に行いました。