特撮に魅入られた人たち。特撮研究所。

取材協力:株式会社特撮研究所
協力:東映株式会社
取材した人:西澤丞
はじめに
読者の皆さんは、SF映画をご覧になるだろうか?僕は、子どもの頃から大好きだ。しかも、面白い映画を見ると、どうやって撮影しているのか、どんな人が作っているのか、裏方が気になって仕方がない性分でもある。
さて、そんな僕に「うちの会社を取材しませんか?」と声をかけてくれた特撮関係者がいた。それが、今回の取材対象となっている小串遼太郎さん(40)だ。そりゃあ、もう、取材に行くよね。

特撮研究所とは?
小串さんが勤めている特撮研究所とは、特殊撮影技術に特化した会社で、テレビや映画、コマーシャルなどの撮影で実績を上げている。具体的には、東映さんのスーパー戦隊や仮面ライダーといったシリーズもの。映画「シン・ゴジラ」や最近話題になっているネットフリックスの「新幹線大爆破」にも参加している。社内には、撮影、美術、操演、演出、デジタルの五つの部署があり、必要に応じてフリーランスの人たちと一緒に制作している。特撮に馴染みのない人向けに、もう少し説明を加えておくと、美術というのは、怪獣が壊すビルや小道具などを作る部署。操演は、スモークを焚いたり、爆破などを手がける部署だ。演出は、小串さんが所属している部署で、監督をはじめとした、製作を取りまとめる部署だ。なお、特撮シーンを丸ごと請け負うことのできる会社は、日本に2社しかないそうだ。

取材時に製作されていた作品などについて
取材の時に撮影していたのは、東映さんの「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」のテレビシリーズと劇場版だ。劇場版は、2025年7月に公開された。なお、この作品では、作品全体としての監督さんはいるものの、特撮シーンに関しては、特撮研究所の社長でもある佛田さんが監督を務めている。

小串さんの仕事内容は?
「演出部の仕事は、撮影がスムーズに進むように段取りを考えることですかね。1カットごとにセッティングを変えなければいけないのですが、この撮影の後に、こっちを撮れば、セットを大きく変えなくて済むかなとか、これをやっている間に別の準備が出来るかなというのを、事前に考えてスケジュールに落とし込んでいます。事前に各部署に相談してからスケジュールを完成させる方法とざっくりしたスケジュールを提示して各部署の意見を聞く方法があるのですが、僕は後者を選んでいます。あまり厳密に組んでも、トラブルなどで思い通りに行かないこともありますし、初めてのことなどはやってみないとわかりませんので臨機応変に対応する必要があるからです。また、多くの人が関わっていますので、スケジュールが1日延びてしまうとものすごく費用が掛かってきます。こだわる部分と、そうでもない部分。費用と効果の見極めも大切です。それから、監督からの要望に対して『出来ません』っていうのは、負けた感じがするので、なんとか実現できるようにがんばります。」

他の仕事も見てみよう
撮影の合間に、他の部署の人にもお話を聞いてみたので、ちょっとだけ紹介しておこう。
操演

炎や爆発、煙などを担当する部署だ。取材中は、上の写真に写っている和田さんが中心となり、フリーランスの人をまとめていた。映画の製作では、案件ごとにフリーランスの人が招集され、特撮研究所のような会社に所属している人の方が少数派だ。
操演の作業は色々あって、取材中に見ただけでも、火薬による爆破、ガソリンを使った爆破、煙の発生、ガスを使った炎の演出などがある。下の写真では、剣から火花が飛んでいるけど、これも事前に火薬を仕込んでおいて、スーツアクターさんの動きに合わせて発火させているのだ。






美術

美術部で中心となっているのは、上の写真に写っている松浦さんだ。この日は、ロボットが壊す構造物を作っていた。赤色の部分が、実際に使う構造物で、木の部分はサポート材だ。丈夫に作ってしまうと壊れないので、自立するギリギリの強度しか持たせられない。ただ、現場までは壊れないように運ばなければいけないので、サポート材が必要ってわけだ。後で聞いたところによると、現場に設置してから、さらに切り込みを入れて壊れやすくしたとのこと。ただ作るだけよりも数倍難しいぞ。



撮影

メインカメラマンを務めていたのは、上の写真で指差しをしている岡本さん。撮影を始める時には、まず岡本さんがスタジオの奥行きなどを考慮しつつ、カメラの位置やアングル、レンズの焦点距離を決める。その後、全ての要素は、岡本さんが設置したカメラの位置から見た時に最適となるようにセットされるので、他の場所から撮っても全くいい絵にならない。僕が撮った写真も、単に撮影風景を記録したものに過ぎず、実際に映画やテレビで使われる映像とは、全くの別物だ。
照明

特撮研究所さんの場合、照明はフリーランスの人が行っているんだけど、ちょっとだけ説明させてほしい。
上の写真のように夜間を想定したシーンでは、ロボットのディテールが潰れがちだ。そこで、胸の部分には、光を当てたレフ板が映り込むように、絶妙な角度で照明がセットされていた。照明を当てる時のポイントは、とにかく主人公が目立つように、自然と主人公に目が行くような照明を心がけているとのこと。
爆破シーンの製作風景

今回取材させてもらった中では、ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー劇場版の爆破シーンが特に印象的だったので、その製作の様子をご覧いただこう。このシーンは、準備から撮影終了までに2日掛かっている。また、大きな爆発なので屋外での撮影となった。
事前に、山を作って、その周りを爆破すると聞いていたので、ワクワクしながら現場に行ったものの、始まった作業を見て、正直なところ「これが山になるの?」と思ってしまった。しかし、作業が進んで行くに従って、本当に山になってきた。疑って、すみませんでした!










2日間掛けて準備した爆破は、本当にあっという間。スーツアクターさんや点火する人は、その一瞬の動きに全てが掛かっているので、めちゃくちゃ緊張しそう。すごい世界だ。
小串さんに個人的なことを聞いてみた。

なぜ、この仕事に?
「小学2年生の頃に『平成ゴジラ』を観て特撮に興味を持ち、中学2年生の時に『平成ガメラ』を観て、拗らせてしまいました(笑)大学は、大阪芸大に進み、課題で制作した怪獣映画がテレビ番組で放送される機会がありました。それを当時のこの会社の社長が見ていて、『大阪に面白い奴がいるから、会ってこい』と命じられたのが、今の社長です。
『見学に来る?』という言葉で誘われて、4年生の時には1ヶ月くらい見学に来ていました。テレビ局や広告代理店などに向けて就職活動をしたこともありますが、どうもしっくり来ません。あてもなく『東京に行こう!』と思い立って、引っ越したら『美術の欠員が出た』っていう連絡をもらい、そこからアルバイトで参加するようになりました。その後、監督の助手をやるようになって、2008年ごろから社員です。運がよかったんですね。
ちなみにテレビ番組で放送されたのは、NHKのコンテストに応募したからです。その時の審査員は『平成ガメラ』の特技監督である樋口真嗣さんでしたので、それ以来のお付き合いになっています。」

どんな感じで仕事を覚えた?
「最初は、見習いですよね。それを過ぎてから、今までは助手の仕事をしてきました。最近は、外部の人から指名されて仕事をすることが多くなっています。
転機は「シン・ゴジラ」(2016年公開)に関わらせてもらったことです。そこから「シン・ウルトラマン」や「シン・仮面ライダー」にも参加させてもらえるようになりました。最初は会社で受けた仕事が回ってきた感じだったのですが、少しずつ個人として認識されるようになり、それにつれて、それぞれの作品に関わる期間が長くなってきました。「シン・仮面ライダー」(2023年公開)の時は、準備から参加していたので、2年半くらいは会社に行ってません。
また、自分自身が監督として仕事をする機会もあって、今、次のステップに進もうとしているところです。監督として成功するには、プロデューサーやお客さんの期待を上回る演出をしないといけませんが、演出って過去の例がいっぱいあるんで、何を作っても『あの映画みたいだね』ってなりがちなんですよ。そんな中で『この人に頼めば面白そう!』って思ってもらえるようなオリジナリティーを出すのは、難しいと感じています。」

模型を使う特撮とCGの違いは?
「模型の場合は、やってみないとわからない不確かさがあって、それが映像の豊さになっていると思います。それに現場の緊張感が違います。この間、山を作って爆破のシーンを撮ったじゃないですか。あれを、『爆破はCGでやります』ってなったら、緊張感は生まれません。現場で本当にやっているっていう緊張感は、絵に出ますし、見ている方にも伝わります。本物は、絵が強いんです。」
誰かに説明をする時に、気をつけていることとは?
「話が長くなってしまうと何を言っているのか分からなくなってしまいますから、簡潔に。そして答えから言うようにしています。日本人って、理由を色々説明した後で、答えを言うじゃないですか。理由がないと相手が納得しないと思い込んじゃってるんですね。僕は、相手によっては、理由を言わない方がいい場合もあると考えているので、あえて「こうして欲しい」とだけ伝えることもあります。もちろん、「なぜ?」と聞かれることもありますから、そういう疑問が出た場合の回答は、事前に用意してから現場に臨みます。」

チームで製作する際に気をつけていることとは?
「各部門のトップの人たちは、それぞれに演出論を持っています。『俺だったらこうする!』みたいな。ですから、頭ごなしに『この通りやって』と言ってしまうと彼らの仕事が、ただの作業になってしまって、いいものが出来ません。あまり細かなことを伝えずに、『あとは面白いようにやってみてください』っていうのが、監督をする上で大事にしなきゃいけないことだと思っています。
佛田監督は、よく『いいから、やってごらん』って言うんです。これは、僕にとって金言で、こんな簡単な言葉で選択肢を増やしてくれるなんてすごいと思っています。」

おわりに
昨今、映画でCGが多用されている理由のひとつに効率化があると伺った。同じように映画業界以外でも、「数字を根拠にしたマーケティング」とか「工数削減による効率化」など、数字を根拠に考える人がとても多い。でも、もし、遊び心を持たずに、数字ばかりを追いかけて仕事をしている人がいたなら、その人をAIに置き換えるのが一番の効率化だ。これからの世の中は、数字と遊び心のバランスが重要だと思うぞ。
特撮研究所さんの取材中、BGMに昔の特撮の主題歌が混ざっていた。本当に好きなんだろう。彼らの遊び心が発揮された力強い作品を、これからも期待する。
写真と文:西澤丞 取材は、2025年2月から5月にかけて行いました。

