水害対策の施設を作る。東京都の地下調節池

取材協力:東京都建設局
取材した人:写真家西澤丞
はじめに
近年、ゲリラ豪雨などによる水害のニュースを、毎年のように目にする。水害を防ぐための施設は各地にあり、東京にもいくつかの調節池があることは、以前から知っていた。しかし、とあるきっかけで、トンネル形式のものが建設中だと教えてもらったので、早速、現場に行ってみることにした。何かを建設している様子って大好きなんだよね。完成してからだと分からない構造や作っている人が見えるからね。

この調節池について
お邪魔させてもらったのは、環状七号線地下広域調節池の石神井川区間だ。ここは、すでに完成している白子川地下調節池と神田川・環状七号線地下調節池をつなぐための区間だ。ゲリラ豪雨はピンポイントで降ることが多いから、バラバラに調節池が存在している状態だと、雨の降っている場所の調節池がいっぱいになったら他に余裕のある調節池があっても溢れることになってしまう。広い範囲を繋げておけば、ピンポイントのゲリラ豪雨に対応しやすくなるってことだ。ちなみに、この調節池は、最終的に海まで繋げる計画になっている。なんとも壮大な計画だ。
この石神井川区間は、長さ5.4kmで内径が12.5m。溜めておける水の量は68万㎥だ。2028年の取水開始を目指していて、撮影させてもらったタイミングは、全体の1/3くらいを掘り進んだ状態だった。

シールドマシンとは?
このトンネルは、シールドマシンという2500トンもある巨大な機械を使って掘っている。都市部で道路や共同溝などのトンネルを作る時に、よく使われる機械だ。茶筒を横に倒したような円筒形をしていて、先端部分に円盤状のカッターフェースと呼ばれる部品が付いている。そこには土を削るための歯(カッタービット)が付いていて、円盤を回すと土が削れる仕組みになっている。また、カッターフェイスの後ろには、トンネルの壁(構造材)を組み立てる装置がついていて、自らトンネルを組み立てる。そして、作ったトンネルの端をジャッキで押して前進する。1台で色々なことが出来る、なんとも合理的な機械だ。なお、この現場で使われているシールドマシンは、急なカーブを描く必要があったため、胴体の途中が曲がるようになっている。

ちょっと専門的な話をすると、このシールドマシンは、泥水式のシールドマシンだ。泥水式以外でよく見かけるのは、泥土圧式というもの。細かな違いは、僕もよくわからないが、掘った土がパイプで運ばれてくるのが泥水式。ベルトコンベアで運ばれてくるのが泥土圧式。この現場では、泥がパイプの中を通ってくるので、ベルトコンベアで運ばれてくる方式に比べると、トンネル内がきれいだ。工法の詳細は分からなくても、写真の写りが違うので、僕としては気になるポイントだ。


この現場について
トンネルの深さは、32mから40mの間。低予算に抑えるためには浅いところを掘ればいいのだけれど、浅いところには既存の埋設物などがあるので、それらをバランスさせた結果、この深さになったそうだ。なお、道路用のトンネルは、トンネルが坂になっていても問題ないが、水を扱う設備ではそうはいかない。坂なんか作ったら水が溜まる場所ができちゃうからね。
シールドマシンの掘進速度は、毎分約20㎜。トンネルの壁となるリングは、1リングが1.8mの幅なので、1.5時間くらいで1リング分進むことになる。ただ、この現場では、掘りながらリングを組み立てる方法ではなく、ある程度進んだところで掘削を止め、リングの組み立てに集中するという方法をとっている。同時に作業をしても、掘った土の搬出が追いつかないので、意味がないからだ。
なお、現場で作業をしているのは20人ほど。シールドマシンの周りに5人、トンネルの部品を運ぶのが2人、シールドマシンの操作室に3人、地上の設備や誘導員などが5人くらい。かなり広い現場であるにも関わらず、人が少ない。

トンネルの部品について
上にも書いたように、トンネルは、リングをどんどん繋げて形にしてゆく。リングを構成している円弧状の部品は、セグメントと呼ばれていて、9個のセグメントで1つのリングが完成する。また、この現場で使われているセグメントは、金属で出来た箱の中にコンクリートを流し込んだような作りになっている。金属が使われているのは、トンネルに水が溜まった時の圧力に耐えられるようにするためだ。道路用のトンネルであれば、内側から圧力が掛かることはないので、全体がコンクリート製になっている。
ちなみに、セグメントは、大きさの違うものもあるが、多くは1個で8.5tくらいの重さがある。だから、運び込む時には、トレーラー1台に2個ずつしか載せられない。



なぜ、ズレないのか?
こんな大きなトンネルを見ると、なぜズレないのか気になるので、聞いてみた。測定の方法は二つあって、一つは、人が地上にある測定用のポイントから地下に下ろして、シールドマシンの位置まで測定する。二つ目は、各所に設置した測定機器からシールドマシンの位置を割り出す。測定方法を一つにしてしまうと、それが間違っていた場合、大変なことになってしまうので、二つの方法で行っている。なお、ズレの許容範囲は±50ミリとなっているが、実際はそんなにズレたりしないそうだ。


事前の調査
この現場では、シールドマシンが発進する際に、発進立坑の鉄筋コンクリート壁をシールドマシンで直接切削して掘り始める工法を採用した。しかし、その工法用のカッタービット(歯)の形状や配置が、実際の地質にマッチしなかったため、途中で交換しなければならなかった。そのお話を伺ったので、事前の地質調査についても聞いてみた。基本的には、100mくらいの間隔でボーリングをして調べるそうだが、必ずしも等間隔で調べられるわけではないし、地上の建物などの都合で、実際に掘る場所と違う場所を調べなければならないこともある。そんな状況なので、事前の調査では、多分こんな感じだろうくらいしか分からない。この現場の場合、想定していたよりも実際の土の粘性が高かったのだそうだ。地下のことは、ある程度の推測しか出来ないので、時には想定外のことが起こることもある。



掘った土の行方
掘った土は、パイプを通して地上へと運ばれる。地上には、土をふるいに掛ける装置があって、細かな土はフィルタープレスという機械で泥水と分離して、廃棄物として処分場へと運ばれる。大きな粒と中くらいの粒は、別の土木現場などで再利用できるので、仮置き場へと運ばれてゆく。なお、ふるいに掛ける装置は大きな音がするので、防音ハウスの中に設置されている。防音ハウスは、単に壁があるだけではなく、壁の中に吸音材を入れた本格的な防音設備だ。近隣には住宅があるし、夜間にも仕事をしているので、きちんと配慮したものにしてある。これは、都会の建設現場ならではの設備だ。田舎の現場だと、設備が屋外に置いてあることもある。





お話を伺った人

この取材では、現場の取りまとめ役の立澤延泰さんに、上に書いた話も含めて色々と教えてもらった。立澤さんは、東京都建設局の職員で、建設局内では目標の先輩にもなっているシールドトンネルに関するエキスパートだ。ここからは、個人的なことを聞いてみようと思う。
仕事の内容とは?
「現場監督の仕事と大体同じですけど、何か問題が起きた時に、トラブル解消の方向性を決めるのが仕事になっています。この現場での大きなトラブルは、シールドマシンの歯を交換しなければいけなくなったことです。この現場では2回、歯を交換しています。1回目は、発進立坑から出る時に鉄筋コンクリートの壁を削らなければいけなかったのですが、その時に歯が壊れてしまいました。その時は、交換するのに2年かかりました。現場では、想定できないことが起こりますが、トラブルが少なくなるように色々なケースを可能な限り漏れなく想定しておくのが大切です。」
仕事の難しさとは?
「土木は『経験工学』などと呼ばれることがあるくらい、経験がとても重要です。予測できないことが沢山出てきますので、ある程度の経験がないと対応できないのです。そこが難しいですね。」
土木の楽しさとは?
「現場がそれぞれ違いますし、条件も違います。そして何より、少しずつ形になって行くのを見るのが好きなんです。」
なぜ、土木の仕事に?
「もともと機械に興味があったんですが、試験に受かったのが土木だけだったんですね(笑) 「機械が好き!」というところから始まりましたので、シールドの現場は、大好きです。異動などで現場を離れていた期間もありますが、かなりの期間をシールドの現場で過ごしています。今まで関わったトンネルは5本くらいでしょうか。構造を考えるのも好きです。トンネルに接続部分をつける必要がある場合は、トンネルを部分的に切り開くんですけど、そういう時に構造を考えながら設計するのが楽しいですね。」
課題と展望について
「今まで道路トンネルには、設計でしか関わったことがありませんので、一度は現場で関わってみたいですね。地下調節池は、海まで接続する計画があったり、これからも都民の安全を守るためには増やしていく必要があるのですが、人手不足です。そういうわけで、技術の継承が大事なので、いろいろ考えています。ただ、若い人にはやる気のある人が多いので、その点が希望です。」
おわりに
フェンスで覆われた向こう側、見えないところで、自分たちの暮らしを支える施設が作られている。そして、そこで働いている人たちがいる。こんなにすごい現場を見たら、撮影して誰かに伝えたいって思うよね。それが、僕の活動の原点だ。
写真と文:西澤丞 2026年3月に取材しました。




