ガラスの食器を作る人たち。石塚硝子さんの場合

取材協力:石塚硝子株式会社(愛知県と東京都)
取材者:西澤丞
はじめに
今回取材させていただいた石塚硝子さんは、実は、以前にも取材させてもらったことがある。ただ、その時は、このウェブサイトを作る前だったので、記事としてまとめることが出来なかった。また、写真集としても出版できなかったので、ずっと気になっていた。そこで、雪辱を晴らすべく、改めて取材させてもらうことにした。石塚硝子さんは、ペットボトルや紙容器なども生産しているが、ここでは、ガラス食器の生産とデザインについて取り上げている。生産現場は愛知県にある岩倉工場、デザインは東京支社で、それぞれ取材させてもらった。

ガラス食器の製造工程
ガラス食器の作り方は、種類によって若干違う。今回はビール用のジョッキとグラスを作っている様子を取材させてもらった。工程は、以下の通り。
・材料の混ぜ合わせ
・溶解
・成型
・切削と仕上げ
・徐冷
・検査
・印刷 これは社外秘だったので取材していない。
では、具体的な内容を紹介してゆこう。
材料の混ぜ合わせ
材料は、以下の4つを混ぜ合わせて使う。配合を変えれば、当然ガラスの性質も違ってくるので、配合比率は企業秘密だ。なお、下には書いていないけれど、少しだけ卵のカラを使用している。SDGsの一貫だ。
・珪砂
・ソーダ灰(炭酸ナトリウム、アメリカ産)
・石灰石
・カレット(製造時のロスを再利用)
ソーダ灰というあまり聞きなれない材料は、ガラスを溶けやすくするために入れる。これを入れないと主原料である珪砂の融点が2000度くらいであるのに対して、加えると1500度くらいになるのだ。カレットというのは、ラインを動かし始めてから安定するまでの間に出る不具合品を砕いたものだ。不具合品と言っても、材料に問題があるわけではないので、もう一度使うのだ。







溶解
溶けたガラスの温度は、最高で1575度。点検口から中を見せていただいたが、専用のガラス越しに見ても眩しくて何がどうなっているのかよくわからなかった。多分、見慣れていないと理解できないんだろうね。また、炉は休みであっても基本的には止めない。普段の生産は交代しながらずっと行われていて、長期休みの時は、炉を加熱したまま待機させるような動かし方をしている。冷えて固まっちゃったら大変だ。なお、炉の熱源にはLNG(液化天然ガス)を使っている。電気だと熱量が足りないし、発電のところからトータルで考えた場合、SDGsには繋がらないという判断だ。



成型
ビールジョッキを作るには、1500度くらいで半固体になったガラスを、一定量に切断した後、金型に入れて成型する。




生産品の種類を変えるタイミングは、1日に一度。朝だけ。作るものを変えると、ラインが安定するまで1時間程度かかるので、機械を動かし始めたら次の日の朝までずっと動かし続ける。上の写真を撮った時には、まだ安定していなかったみたいで、出てきた製品を見ては機械を調整するといったことを何度も繰り返していた。それから、この機械が置いてある場所は、あまり明るくないのだけど、それは、ガラスの色を観察する必要があるからだ。明るくしたら微妙な色が見えなくなっちゃう。

ビールジョッキとグラスでは、成型方法が違う。ジョッキは、ガラスを金型に流し込む方法であるのに対して、グラスは、ガラスに空気を吹き込んで金型に押し付ける方法で作る。空気を吹き込む方法では、厚さを均等にするのが難しいので、細長いものとか、くびれのあるものを作るのが苦手だ。あまり厚いものも作れない。反対にジョッキのように金型に流し込む方法では、薄く作るのが難しい。作るものによって、作り方も違うのだ。
切削と仕上げ
成型が終わったばかりの製品には、金型の継ぎ目にバリが出ている。そのバリをなくすために、バリだけが溶けるような絶妙な温度に設定したバーナーの前を通過させる。このバーナーでは口の部分を、このバーナーでは持ち手の部分を、といった具合で、次々に仕上げてゆく。ビールグラスは、最終的に口の部分をバーナーでカットする。




徐冷
様々な加工をしたガラスには、応力という余分な力のかかった部分ができてしまう。そこで、その余分な力を分散させるために徐冷という工程が必要になる。一旦、温度を590度まで上げてから、550度の状態を10分程度維持する。その後、1〜2時間程度かけて50度まで冷やして行く。

検査
検査は機械でも行われるが、人の手でも行われる。異物や気泡などは機械でも見つけられるが、微妙な歪みや触らなければ分からないものは、やはり人が確認しなければならない。検査の工程は、製品によって違っていて、機械による検査が5工程ある製品もあれば、ビールジョッキのように人だけで検査するものもある。


出荷の準備
検査が終わったら表面に石鹸水を塗布して、次の工程やお客さんのところに運ぶまでの擦り傷を予防する。その後は、ラップでぐるぐる巻きにして、仮置き場へ移動だ。



金型の整備
金型を整備する部署があるというので、そちらにもお邪魔した。この工場では、1日に10万個くらいの製品を作るので、金型の痛みも早い。取材させてもらった時は、金型をひたすら研磨していた。右下の写真は、生産ラインで使う部品を自作している様子。




現場の人に個人的なことを聞いてみた。

作業中の人に話を聞くことは出来ないので、現場を管理している人にお話を伺ってみた。答えてくださったのは、生産管理を担当されている小川祐司さん(38) 担当されているお仕事は、新しい技術の開発、金型の材質の研究、ガラスの組成、表面加工など多岐に渡る。
なぜ、石塚硝子に?
学生の時に日常生活に使うものを作る会社がいいなと思っていて、この会社であれば、材料から最終的な製品まで一貫して関わることができ、魅力的だと思いました。
石塚硝子って、どんな会社?
自分の部署のことしかわかりませんが、所属している部署はいわゆる体育会系ではありません。温厚な人が多いですね。部署をまたいだコミュニケーションもできますので、風通しはいいと思います。
仕事をする上での難しさとは?
創業が1819年という歴史のある会社ですので、古くからの製造方法が受け継がれています。ただ、どうしてこの製法なのかといった資料が残されていないことが多く、それを調べるのに時間が掛かります。より安全な方法や効率のいい方法を試したんですけど、そもそもどうして今のやり方になっているかが分からないと変更できないのです。調べていると、昔の人は、どうやってこの方法に辿り着いたんだろうと驚くこともあります。
仕事のやりがいとは?
改善したことの結果が出た時でしょうか。現場から生産性が上がって残業が減ったという声が来た時などはやりがいを感じます。現在は、金型の表面に施すコーティングを試験中です。
ガラス食器のデザイン


今回は、工場の生産ラインだけではなく、デザインについてもお話を伺ってみることにした。石塚硝子さんのデザイン部門は東京にあって、自社製品を担当する部署をはじめ、グループ会社のデザインをする部署など、4つに分かれている。岩倉工場では、ビールジョッキとグラスの撮影をさせてもらったので、ビールメーカーさんとやりとりする部署に所属している霜田友莉亜さん(28)にお話を伺った。

デザインの進め方
デザインの工程は以下の通り。
・ラフスケッチ
・原寸大のスケッチ
・営業さんとの打ち合わせ
・図面の製作(3Dソフトを使用)
・製造現場とのやりとり
・クライアント(ビールメーカー)への提案
新しく金型を起こすような新規デザインは年間15点ほどだが、製品表面の図案だけの変更は、1,000点ほど(!)もあるので、かなり忙しい。提案する際には、3Dソフトのデータを元にAIで製作した完成予想図や3Dプリンターで出力したものを持って行く。
ちなみに生産の最低ロットは3万個だ。生産の時の金型交換が1日1回なので、そこから導き出された数字だ。それを下回ると単価が高くなってしまう。なお、たくさん作る時は、100万個以上作ることがある。最近では酒税が変わったこともあり、ビールメーカーさんも力が入っていて、たくさん作ることが多かったそうだ。

材料や製造方法の変化がデザインにも反映される?
以前は、物理強化と言って、加熱したガラスに冷たい空気を吹き付けて作る強化ガラスが使われていましたが、最近は薬品を使って強度を上げる化学強化を行うことが増えてきました。また、求められる品質の基準も徐々に厳しくなっていますので、それらを考慮しながらデザインしています。
人気のデザインとは?
最近は、口に当たる部分が薄いものが人気です。ビールジョッキでも以前と比べれば薄くなってきていると思います。お客さまがどのような商品を求めておられるかという情報は、ふんわりとした形で出てきますので、イメージをうまく汲み取って形にするようにしています。また、ビールの場合は、コクを重視したビールとキレを重視したものでは、おいしさを感じる形が違います。コクのあるビールの場合は香りが重要な要素ですので、グラスの口の部分がすぼまっているものが合います。キレが特徴の場合は、口の部分が広めで胴の部分がストレートなものが合いますので、そのようなことも考慮しつつ形を決めてゆきます。提案の際には、営業担当者が良いと思うものやデザインする側が良いと思うものなどを、何種類かお持ちして選んでもらいます。他社とのコンペなどもありますから大変です。


個人的なことも聞いてみた
デザインする時のインスピレーションは、どこから?
食事に出かけた時のお店に置いてある食器などは、どうしても目が行ってしまいますね。
なぜ、石塚硝子に?
以前は、ものづくりではない会社に勤めていたのですが、食器が好きで、ものづくりにも興味がありましたので、中途で入社しました。うちの部署では、お酒を飲めた方がいいので、面接の時に聞かれたことを覚えています。
石塚硝子って、どんな会社?
未経験の私にも丁寧に教えていただけるので、とても助かっています。ただ、どうしても経験が必要な部分がありますので、それが今の課題です。経験がないので、どこまで攻めていいのか分からず、先輩に「もっと攻めてもいいんじゃない?」って言われています。ちょっと慣れてきたこともあって、安全な方に行きがちになってしまうので、もっと勉強して攻められるようにしたいと思います。
どんなことを勉強してきた?
美術系の大学で映像の勉強をしていました。ですので、プロダクトデザインは、ここに来てから学んでいます。3Dソフトの使い方も入社してから覚えました。美大の卒業は、採用の絶対条件ではないそうですが、美術の下地がないと入社してからが大変だと先輩から聞いています。
今後の展望は?
反響があるとうれしいので、市場で求められる商品を作ってゆきたいと思っています。また、ガラスという素材を活かしたデザインをしたいと思っています。
おわりに
ビールは、注ぐグラスによって味が変わる。僕も、以前は缶から直接飲んでいたのだが、グラスに注いだ方が美味しくなると知ってからは、いつもグラスを使っている。きっかけは、前回、石塚硝子さんを取材した時に、お土産としていただいたビールグラスだ。あれがなかったら、僕はずっとビールのおいしさを知らないまま過ごしていたと思う。器を変えると食事が美味しくなる。これは、多くの人に知っていただきたい。知らなかったのは、僕だけかもしれないけど。
取材と文:西澤丞 取材は、2026年10月に行いました。




