熱を加えない?電気分解?銅の製錬工場に行ってきた。


はじめに
この取材は、三菱重工パワーインダストリーさんとのコラボ企画の第三弾だ。三菱重工パワーインダストリーさんは、ボイラーやタービンなどの発電設備を扱っている会社なので、その納入先を取材させていただきつつ、製品がどんなところで使われているのかを紹介する内容だ。
今回、三菱重工パワーインダストリーさんから提案していただいたのは、JX金属製錬(株)さんの佐賀関製錬所。銅を製錬している工場で、個人的にも気になっていた工場だ。

取材先:JX金属製錬株式会社 佐賀関製錬所(大分県)
取材協力:三菱重工パワーインダストリー株式会社
取材者:西澤丞
JX金属さんと佐賀関製錬所について
JX金属さんは、銅やレアメタルなどの非鉄金属を扱っている会社で、それらの販売はもちろんのこと、資源開発から製錬、リサイクルまで行っている。中でも半導体の配線に相当する部分に使われている銅の素材は、世界シェア6割を誇っている、すごい会社だ。お話を聞くまでは、僕も知らなかったんだけどね。
佐賀関製錬所は、操業開始が1916年(100年以上前!)という歴史のある工場であるにも関わらず、先に出てきた最先端用途の素材も生産しているという、JX金属さんの中核とも言える工場だ。工場は24時間稼働していて、働いているのは、約500人の社員さんと約400人の協力会社の人たちだ。初めて工場に近づいた時の印象は、半島に突き出た山全体が工場のような外観をしているからなのか、歴史があるからなのか、町と工場が一体化しているような印象だった。上の写真に写っている高さ200mの煙突は、遠くからでも見えるので、町のシンボルのようにも見えた。
銅の製錬について
この工場における銅の製錬工程は、以下のようになっている。
・原料の受け入れ
・原料の調合
・自溶炉
・転炉
・精製炉・アノード鋳造
・電解精製
・出荷
今回は、原料の調合から電解精製までを取材させてもらったので、それぞれについて詳しく紹介しよう。

原料の調合
この工場に運び込まれる原料は銅精鉱と言って、採掘地の近くで下処理をし、銅の含有率を25%くらいまで高めた物だ。これを年間で20〜30種類くらい扱っていて、その中から3〜8種類を混ぜて使う。取材した日は6種類の銅精鉱を混ぜて製錬していた。混ぜて使う目的は、銅の含有率を揃えて生産を安定させるためだ。銅の含有率が高いと、中間工程である精製炉の能力が追いつかず、上工程である自溶炉の生産能力が余ってしまう。反対に、銅の含有率が低いと自溶炉の能力がいっぱいになってしまって、転炉や精製炉が遊んでしまう。だから、設備を効率よく回すために、銅精鉱を混ぜて使う必要があるってわけだ。また、銅の含有率以外にも、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニッケルなどの不純物を扱う量にも制限があるので、それらも越えないようにしないといけない。昔と比べて管理しなければいけない元素の数が、どんどん増えているそうだ。

自溶炉
自溶炉の写真は無い。すまん。企業秘密だ。役割だけ説明しよう。銅精鉱を溶かす自溶炉には、熱を加える装置はついていない。銅精鉱に対して、酸素濃度を80%くらいに高めた空気を吹き付けると、自然に熱が発生して溶けてしまうのだ! 銅精鉱には硫黄と鉄の成分が含まれているので、それが酸素と反応して熱を生み出す。みんなが冬になると使うカイロと同じ仕組みだ。自溶炉の名前の意味が、説明を聞いて初めて理解できた。
炉の中では、上部から銅精鉱が投入され、酸素を多く含んだ空気が吹き込まれる。炉内の温度は、1250〜1300度くらいになっていて、炉の一番下に溶けた銅の成分があり、その上にスラグという不純物成分が浮かんでいる状態だ。この段階で、銅の含有率は65%くらい。なお、硫黄の成分は、ガス状で回収し、硫酸として製品になる。

転炉
自溶炉で溶けた銅は、ここで再度、酸素成分が多めの空気を吹き込まれ、銅の成分を99%くらいまでに高められる。硫黄の成分は、この工程で大部分が無くなる。また、この工場には、転炉が4基あり、3基を稼働させ、1基は整備するというサイクルで運用している。

精製炉・アノード鋳造
精製炉では、銅の含有率が99.5%くらいになる。含有率の差が転炉と少ししか違わないので不思議に思っていたが、この工程には銅の中に含まれている硫黄や酸素の濃度を微調整する役割があるそうだ。調整が済んだ後は、溶けた銅を型に流し込んで板状に成形する、アノード鋳造という工程に移る。


電解精製
銅の純度を高める最後の工程は、なんと電気分解だった! ステンレス板と前の工程で作ったアノード(銅の板)を、硫酸銅溶液に浸けて電気を流す。すると、アノード中の銅原子がイオンとなって溶液に溶け出し、ステンレス板に析出する。ステンレス板に付いた銅は、力を加えると隅の方から剥がすことができるという。この剥がした銅の板が、この工場での製品となる。

工程以外のことも聞いてみた

さて、今回、お話を伺ったのは、調鉱(銅精鉱の調合)と自溶炉の操業管理を行なっている相馬悠紀さん(41)と設備や機材の保全を担当している岡村博春さん(46)だ。ここからは、工程以外のことも伺ってみよう。
・銅を製錬する上で難しいこととは?
「不純物の多い鉱石が増えているので、操業を安定させるのが難しくなってきています。また、同時にスラグの中に銅の成分が残りやすくなってしまうので、それにも対処しなければいけません。銅を製錬すること自体は、他社でも出来るので、如何にスラグの中の銅成分を減らして効率的に操業するかというのが課題なんです。」
・原料として使っているリサイクル材とは?
「リサイクル材として使っているのは、電子部品や銅線などです。銅の含有率には、幅があって、20〜90%です。今、リサイクル材を増やす取り組みをしているのですが、リサイクル材を増やしてしまうと熱量が下がってしまいますので、それも課題になっています。現状では、リサイクル材の使用率は、原料の中の15%くらいなのですが、将来的には50%くらいにしたいと思っています。」

三菱重工パワーインダストリーさんのボイラーについて
「自溶炉についている自溶炉ボイラーですね。このボイラーは、昭和47年(1972年)に設置され、ボイラーで発生させた蒸気を使って13メガワットの電気を発電しています。これは、工場内で使う電気の15%にあたります。タービンも発電機も三菱重工パワーインダストリー製です。ボイラーは、2年に一度、定期点検をしなければいけませんので、その時は製錬に関わる設備は全部止めて一斉点検です。段取りが大変ですので、点検が終わったら次の点検に向けてすぐにアクションを起こすという流れになっています。」
設置された当時は日立製作所製だったボイラーだが、事業の再編により、現在は三菱重工パワーインダストリー社が管理を引き継いでいる。僕たちが普段使っている工業製品は、生産終了後10年もすれば、修理不能になってしまうことを思うと、50年も維持管理が出来ているっていうのは、すごい話だ。


・ボイラーのメンテナンスで気をつけていることとは?
「ボイラーの中には、数多くの配管があるんですけど、温度条件や場所によって傷んでくる条件が変わってきますので、それらをきちんと管理して点検修理する必要があります。稀に、トラブルがあって止めなければいけない時があるんですけど、そうすると自溶炉の操業を2日間くらい止めなければいけないので、大損害です。」
ここで、一般の人向けにボイラーと発電機について説明しておこう。ボイラーは、大きな箱の中に水を通した配管がたくさん並ぶ構造になっている。そして、箱の中に炉から出た熱い廃熱を吹き込むと、配管の中の水も熱くなるので、その一部を上の写真にあるような蒸気ドラムの中で蒸気に変える。これがボイラーの仕組みだ。蒸気は、その後、タービン(羽根車)に吹き付けられ、タービンが回ると同軸の発電機が回るのだ。
個人的なことも聞いてみた
・なぜJX金属さんに就職した?
相馬さん
「私は大分が地元です。大学は外に出ていましたが、勉強していたのが材料工学で、教授が非鉄製錬を専門にしていたこともあって、地元にあったこの会社に就職しました。」
岡村さん
「私の地元は熊本です。大学が大分でしたので、大分で何かないかなと思った時に、佐賀関製錬所のことを知りました。私は、機械と電気のことを勉強していましたので、工場であれば学んだことをプラントエンジニアとして活かせるのではないかと思いました。」
・仕事のやりがいとは?
相馬さん
「過去に経験したことのないトラブルってあるんですよ。そういう時に原因を追求して、それを修理して直った時っていうのは、達成感みたいなものはありますね。最近は、若手の成長を見るのが楽しみです。彼らには、今まで私が体験してきたことを伝えるようにしています。」
岡村さん
「現場から頼られた時ですかね。例えば『改造したいんだけど、どうしたらいいのか?』みたいな相談を受けた時に、お互いが納得できる形にできると、やってよかったなって思います。」
・職場の雰囲気は、どんな感じ?
相馬さんと岡村さん
「みんなで協力して問題解決や変革に取り組む力があると思います。社員だけでなく、協力会社さんを含めて、佐賀関製錬所グループが一丸となって対応する団結力があると思います。上下関係なく誰とでも話しやすい職場環境ですし。」

おわりに
佐賀関製錬所で働いている人は、大分LOVEな人が多いのかもしれない。インタビューに答えてくれたお二人からも、案内してくださった方からも、それが伝わってきた。海も山もすぐそばにあって、のどかなのに、少し行けば大きな街がある。景観の良さと、ほどほどな感じが妙に落ち着くのだ。仕事を何にするかも大事だけど、どんな環境で働くかってことも大事なんだと思った。
