YAMAHAの鼓動 ヤマハ発動機のエンジン工場

撮影協力:ヤマハ発動機株式会社
取材者:西澤丞
はじめに
前例踏襲ばかりやっている世の中に辟易していた頃、自律走行するオートバイ「モトロイド2」の映像を見つけた。オートバイに乗っていたことのある自分としては、倒れないってことだけでも驚きなのに、単独で走り出すことにも衝撃を受けた。「こういう物を作っているのは、どんな会社なのか?」気になったので、早速、取材の問い合わせをしてみた。返ってきた答えは、「今、オートバイの生産ラインは取材対応できないので、まずは、エンジンの工場を取材してみませんか?」というものだった。僕は知らなかったんだけど、ヤマハ発動機さんは、オートバイ以外にも、ボートや水上オートバイ、小型4輪駆動車など、さまざまな製品を作っていて、他のメーカーにエンジンだけの提供もしている。会社名に「発動機」と入っているのは伊達じゃないようだ。
そんなこんなで、今回は、主に水上オートバイに使われるエンジンの工場を取材させてもらうことにした。

エンジンの製造工程
エンジンを作る工程は、大きく分けて以下のようになっている。
・鋳造
・加工
・組立
・検査
各工程について順番に見てゆこう。
鋳造
ヤマハ発動機さんは、元々、楽器を作っていて、その時の鋳造技術を活かしてオートバイを製造するようになった。だから鋳造には、こだわりがある。実際、鋳造方法や鋳造する金属の種類は何種類もあり、それぞれの特性を活かして生産している。今回はアルミを低圧で鋳造するラインと高圧で鋳造するラインを見せてもらった。
それから、ちょっと話が逸れるけど、2025年現在、ヤマハ発動機さんと楽器を作っているヤマハさんとは、完全に別会社となっていて、グループ会社でもない。知らなかった。

アルミを溶かす

エンジンの製造は、アルミのインゴットをガス炉に入れて溶かすところから始まる。最近ではSDGsに対応して電気とガスのハイブリット炉に切り替えも計画している。炉内の温度は800度くらいで、溶けたアルミの温度は760度くらいだ。



低圧鋳造

溶けたアルミを、写真に映っている取り鍋(傾けているタンク状のもの)から鋳造機の下にある貯蔵設備に移す。貯蔵設備には、鋳造が16回できるくらいの溶けたアルミを貯めておくことができる。
なお、鋳造では、気温や水の温度、素材、アルミを流し込む速度など、変動要素が多い。水の流れなど、数値化できる部分は、マニュアル化していっているものの、いまだに経験が求められる。仕事を覚えるまでに時間がかかる反面、問題が起きた時に対応できる人になるという。


鋳造する際には、製品の中に空洞を作るための中子を、金型の中にセットする。中子は、砂を樹脂で固めたもので、アルミが固まる頃には、樹脂が焼けてなくなるようになっている。鋳造後に砂を取り除けば、その部分が空洞になっているという仕組みだ。近年、エンジンの高性能化に伴い、冷却液の通り道や吸気排気の経路の複雑化、軽量化のための肉抜きなどにより、中子の形状は複雑になっている。上の写真の中子は、一つの部品に対するものなので、その複雑さをご理解いただけると思う。なお、低圧鋳造では、5〜8分ほど掛けて鋳造する。
高圧鋳造

高圧鋳造では、溶けたアルミの貯蔵設備から、一回の鋳造に使う分のアルミをすくい取り、型に流し込む。材料のすくい取り、型からの取り外し、水での冷却、乾燥までが自動で行われていて、最後のバリ取りだけが人の手によるものだ。なお、鋳造している時間だけを見れば、50~70秒くらいなので、かなりテンポ良く作業が進んでいる感じがする。また、型から外す時の温度によって製品の縮み具合が違ってくるので、型から外すタイミングは、とても重要。




金型の整備
鋳造工場の一角で金型の整備が行われていたので、見せてもらった。金型って、もう少し小さなものを想像していたので、大きさに驚いた。


加工
加工は、まず、鋳物に設けられた基準となる場所を目安に、基準となる面を削り出し、それを元に基準となる穴を開ける。そこから必要な切削加工をした後、摺動部や回転軸受けに使われている素材の違う部品を組み付け、仕上げの加工を行う。
なお、加工の工程は、かなりの部分が機械化されている。特に新しい生産ラインでは、工程から工程へと部品を搬送するのもロボットが行なっているので、現場に人がいない。人がいたのは、機械では出来ない工程と検査の工程のみだ。また、加工自体も機械の中で行われているので、すごいことをやっているのに撮影できるものがないという写真家泣かせの現場でもあった。





組立

僕が経験したことのある昔の組み立てラインでは、作業者の周囲にネジなどの部品棚があって、そこから必要な数だけ手に取って組み付けていた。しかし、この工場ではバックヤードに部品を揃える人たちがいて、組み立てラインには余分な部品が置かれていない。作業者の前には、必要な部品が必要な数だけ揃っているので、作業に不慣れな人でも、ネジなどを組み付け忘れることがない。素晴らしい!そもそも、昔のやり方だと、つかんだネジが多くても少なくてもラインの流れにおいてゆかれるから初心者には厳しいんだよね。




ここまで書いていて、エンジンの構造を知らない人にとっては、何を言っているのかわからないということに気がついた。エンジンの構造って中学校の「技術家庭科」で習った記憶があるけど、男子だけだったような…。そう思って、絵に描こうと思ったけれど、難しすぎた。気になった方は、どうか、ご自身で調べてほしい。


各工程には、それぞれ専門の人がいる。作業が属人的になってしまうと休めないんじゃないかと気になるが、それには対策をしてある。休む時は何工程かを熟知したリーダーが対応するようになっているのだ。一番たくさんの工程に対応できる人だと30工程くらいに対応できる。きちんと休みを取れるからなのか、離職率や突発的に休みをとる人は、とても少ないとのこと。また、外国の人も大勢働いている。



金原さんの目下の課題は人材教育で、それぞれの人が得意なことを活かせるようにしたいのだが、得意なことを見つけるのが難しいという。今の時代、プライベートの話はしにくいというのも、難しくなっている理由の一つだ。

検査
この工場では、組み立てたエンジン全てを、防音された部屋で実際に動かして検査している。エンジンの回転数を上げる時には、検査員さんは外で計器盤を見ているので、ご心配なく。




組み立てが終わったエンジンを初めて動かす始動の瞬間は、いつも緊張するという。試運転中のエンジンは、機器を使って温度や回転数、水の流量などを確認する。ただ、人の五感に頼る部分もあって、いつもと違う音がしないか、オイルや水の漏れがないか、細心の注意を払って検査をしていた。なお、検査をする上では、エンジンの知識が必要なのはもちろんのこと、組み立ての工程まで把握できていると、何かあった時の判断がスムーズになるとのこと。

おわりに
「失敗したからといって、それを責める人はいません。挑戦する会社ですから。」今までも色々なメーカーさんを取材してきたけど、こんなに自由な雰囲気の会社は、初めてだ。やっぱり、こういう雰囲気がなければ、試作機と言えども「モトロイド2」みたいなものを作ろうって話にならないのだろう。インタビュー中も笑い声が絶えず、時折、漫才が始まってしまうようなインタビューだったといえば、雰囲気が伝わるだろうか。組織としての上下関係は保ちつつも、上司だから、部下だからみたいな硬い感じは全くなかった。何かに挑戦できる環境は、自由できちんと意見を言える環境から生まれているのだろう。
写真と文・西澤丞 インタビューは、2025年8月に行いました。



