地熱発電でエネルギー自給率アップを目指す!


はじめに
この取材は、三菱重工パワーインダストリーさんとのコラボ企画の第四弾だ。三菱重工パワーインダストリーさんは、ボイラーやタービンなどの発電設備を扱っている会社なので、その納入先を取材させていただきつつ、製品がどんなところで使われているのかを紹介する内容だ。
今回は、九州の地熱発電所にお邪魔させてもらった。地熱発電所を見せていただくのは初めてなので、火力発電所などとの違いに興味津々だ。

取材先:株式会社小国町おこしエネルギー
取材協力:三菱重工パワーインダストリー株式会社
取材者:西澤丞
日本の電源構成と地熱発電
本題に入る前に、日本のエネルギー事情について、簡単に書いておこう。資源エネルギー庁のウェブサイトによると、日本の電源の割合は、再生可能エネルギーが22.9%、火力発電が68.6%、原子力が8.5%となっている。エネルギー自給率は15.2%なので、日本はエネルギーに関して薄氷を踏むような状態だってことだ。
地熱に関して言えば、日本には世界第三位の地熱資源があるにも関わらず、発電量全体に対する割合は0.3%くらいなので多いとは言えない。
なお、これは推測だけど、再生可能エネルギーの割合と自給率がイコールになっていないのは、バイオマス発電の燃料を輸入しているからだろうね。
株式会社小国町おこしエネルギーについて
国内のエネルギー事情が分かったところで、取材先について説明しよう。小国町おこしエネルギーさんは、株式会社町おこしエネルギーの100%子会社だ。名前が似ているので「?」ってなるけど、理由は後で説明するよ。さて、親会社である町おこしエネルギーさんは、業務スーパーの創業者である沼田昭二さんが、食料自給率アップや再生可能エネルギーによるエネルギー自給率アップを目指して新たに設立した会社だ。ここでも「?」って思うよね。業務スーパーを運営する神戸物産さんは上場企業なので、創業者であったとしても、会社を運営する際の意思決定には、役員さんや株主さんの意向を無視することはできない。特に地熱発電のように、他の企業が手を出していない分野への挑戦は、リスクが高いので承認されない。そこで新規に会社を起こす必要があったのだ。また、町おこしエネルギー社の子会社として小国町おこしエネルギー社が存在するのは、税金を納める先を、発電所が立地する自治体にしたいからだ。町おこしエネルギー社は兵庫県が本社なので、そのままだと発電所が立地する小国町(熊本県)に税金を納めなくても良いことになってしまう。それでは、会社名にあるような「町おこし」には繋がらない。そこで、あえて子会社を作っているという訳だ。
説明が長くなってしまったけど、これを書いておかないと沼田さんの熱い気持ちが伝わらない。沼田さんにお会いしたことはないけれど、食料やエネルギーの自給率をアップさせるなんて、個人で実行している人を見たことないから、単純にすごいと思う。それに、地熱発電所の建設には、国からの補助を受けていない。申請すると手続きに時間が掛かるので、沼田さん個人の投資として行われたそうだ。志、スピード感、行動力。見習いたいと思う。

小国町おこしエネルギー地熱発電所について
この発電所は、2024年3月から運転が始まった比較的新しい発電所だ。発電能力は、4,990kWとなっていて、計算方法が色々あるものの、一般住宅の8,000世帯分くらいに相当する。小国町の世帯数は、同町ウェブサイトによると3,000弱なので、かなりの発電量だ。運転は24時間体制で、10人くらいの運転員さんが交代で行っている。
地熱発電所の仕組みについて
地熱発電所の設備は、大きく分けると以下のようになっている。
1)井戸から取り出した熱水と蒸気を分離させるための設備
2)発電するための設備。タービンや発電機など
3)発電に使った蒸気を冷却して回収する設備
この中で三菱重工パワーインダストリーさんは、発電するための設備と蒸気の冷却回収設備を受け持っている。以下の章では、管理用の装置や送電設備なども合わせて紹介する。

生産井と蒸気を取り出すための設備

熱水と蒸気が出てくる井戸、生産井(せいさんせい)。中央の砂利の部分にあるパイプから135°Cくらいの熱水と蒸気が出てくる。専門用語では、熱水と蒸気が混じり合っていることを「二相流」と呼ぶそうだけど、ここでは分かりやすい書き方にしておくよ。なお、この発電所内には、生産井が2本ある。一つで発電所を稼働させることも出来ないわけではないけれど、2本の生産井を組み合わせて運用することで安定させている。
それから、地熱発電で使う生産井は、10ヶ所くらい試掘した中の3カ所が使える程度の確率らしいのだが、この発電所では、最初の試掘で生産井を当ててしまったそうだ。

生産井の上の配管は、温度による伸び縮みを吸収するために少しだけ動くようになっている。銀色のリングに挟まれた部分が、稼働する配管部分。一つの生産井はバネで調整、もう一つの生産井は、重りで調整されていた。

写真の右側に写っている塔のようなものが、熱水と蒸気を分離させる気水分離器。湯気が出ているのは蒸気の圧力を調整する大気放散弁の先にあるサイレンサー。左側の小さい塔は、熱水放出弁から流れる熱水を脈動させず安定して流すために設置されたフラッシュタンク。なお熱水放出弁とは、装置に異常があった時に、熱水を一時的に逃すための装置だ。この弁を開けると熱水がプールのような場所に放出される仕組みになっている。横向きに置いてあるタンクのようなものは、熱水の量や圧力を安定させるための熱水タンク。
発電装置

写真の奥に写っている茶色の建物の中に、発電するための装置一式が収められている。残念ながら建物の内部は、ほとんど撮影不可だった。まあ、運転中なので、タービンブレードなどが見えるわけではなく、回転する機器を納めた箱などがいくつか並んでいるだけなんだけどね。
発電に関する主な装置は、タービン、減速機、発電機だ。この中で、発電設備に置かれた減速機というのを初めて見たんだけど、これは、タービンの回転数を発電機に適した回転数へと調整する役目を担っている。

上の写真は、建物内で撮影OKとなった数少ない装置、真空破壊弁。タービンは運転中、真空の状態で回っている。真空にしないと空気抵抗があるからね。ただ、止める時には大気圧に戻さなければならず、その時に使われるのが、この弁だ。この弁や生産井の近くにあった熱水放出弁のように、緊急時に対応するための装置はいくつもあった。

地熱発電所ならではの装置として設置されていたのが、このタービンブレードを洗浄するための装置だ。地熱発電で使う蒸気は、若干の不純物を含んでいるので、何もせずに回し続けるとブレードに不純物が堆積してしまう、それを防ぐために、月に2〜3回程度、水を吹きつけてタービンブレードを掃除する必要があるのだ。
冷却装置


発電所の中で一番目立っているのが、復水器で凝縮した水を冷却するための冷却塔だ。中がどうなっているのか気になったので、点検用の扉を開けていただいたら、右側の写真のようになっていた、水を雨のように降らせて冷やしてるんだね。基本構造は木製だ。

冷却塔の屋上部分にも行ってみた。湯気が排出されるところも樹脂製。ちなみに階段も金属ではなく、木製だった。木や樹脂が使われているのは、熱水に含まれる成分により金属が腐食してしまうからだ。
管理用の設備


左の写真は、発電所から少し離れた場所にある運転室。右は、発電所内にある、冷却塔などの補器類に電気を供給したり、タービン発電機の異常時に自動で緊急停止司令を出すための設備。発電機の操作と監視は、発電所内でもできるけれど、基本的には運転室から遠隔で操作と監視が行われる。
写真でもご理解いただけるように、運転室がめちゃくちゃシンプル。地熱発電所には、燃料を燃やすボイラーがなく、管理しなければいけないのは地熱蒸気とタービン発電機だけだからだ。
送電に関する設備

上の写真は、電気を送る前に電圧を6.6kvから22kvに高めるための変電設備。電圧を高くするのは、その方が電流を少なくすることができ、変圧器やケーブルでの損失を減らせるからだ。つまり、長距離で大容量の電気を送る場合は、電圧を高くした方が効率的なのだ。


左の写真は、発電所から延びた送電線。立方体の箱から送電線が伸びて600mほど地下を潜る。その後、右の写真のように地上設備に切り替わる。最終的には、九州電力送配電株式会社の設備に接続するのだけれど、送電線の総延長約9km分は、小国町おこしエネルギーさんの設備だ。ちなみに電柱は、220本くらいある。運転員さんの仕事には、こういった設備の管理も含まれるので、やるべきことは沢山ある。
還元井

発電所で使うのは蒸気だけで、熱水は地下に戻す。戻す時の温度は、出て来た時の温度とあまり変わらない。熱水を戻す深さは、生産井と同じ地下700mほどだ。なお、発電所からこの還元井までは約2kmの配管で繋がっている。地下へ送る圧力は、ポンプを使うのではなく、高低差を生かした自重によるものだ。
運転員さんのお仕事を見せていただいた


冷却水のpH測定器を点検している様子。タービンを回した後の蒸気は、復水器で水になった後、冷却塔で冷やされ冷却水として使われる。ただ、冷却される際に、大気中の二酸化炭素や硫化水素を吸収して酸性になり、冷却塔のコンクリートを溶かしてしまう。そこで、水を中和するとともに、きちんと中和されているか測定しなければいけないのだ。


これは、蒸気ドレントラップと呼ばれる、余分な水や空気を排出するための装置の動作確認している様子。施設内には、このような「弁」がものすごく沢山ある。それらは動かさずにおくと固着して動かなくなってしまう。そこで、このように実際に動かして点検をする必要がある。温度を測っているのは、詰まっていないか調べるため。
運転室のある事務棟と発電所は、ちょっと離れた場所にあるのだけど、1日に1回は現場に来て色々な点検をしているとのこと。それ以外にも、草木の伐採など、やることがあれば、もう1回来ることもあるそうだ。
現場の皆さんに教えてもらったこと

ここからは、設備以外のお話で気になったことをまとめてみた。教えてくれたのは、運転に携わっている、竹鼻理一郎さん、矢羽田貴之さん、増田佳史さん。それに試掘の段階から様々な業務を担当されている稲田克也さんの4人だ。稲田さんは、オンラインでのインタビューだった。なお、文章は、皆さんから伺ったお話をまとめてあるよ。
なぜ、この場所に発電所を?
「蒸気の出そうな場所について、国などが調査した結果が発表されていたことと、行政の土地の区分によって建設できる場所が、今の発電所が立っている場所しかなかったからです。」
地元には、すんなり受け入れられたのでしょうか?
「最初は、反対の方もいらっしゃいましたが、何回も通ってきちんとお話をしているうちに理解してくださるようになりました。近くに温泉街もありますので、湯量が減ってしまった場合の補償なども提案しました。」
二つ目の発電所を建設する計画があるのですか?
「小国町でもう1カ所建設しようと、生産井を試掘している最中です。試掘にあたっては、自走式の装置を使って効率的に行っています。」
発電装置などで三菱重工パワーインダストリー社を選んだのは、なぜですか?
「三菱重工さんは、当社のプランに対して営業さんがとても前向きに対応してくれたので、それからのお付き合いです。」
メンテナンスは、どのように行っているのでしょうか?
「日常点検以外では、4年に一回、設備を31日間止めてオーバーホールを行うことになっています。ただ、運転開始からきちんと4年にしてしまいますと雪の積もったタイミングになってしまいますので、半年前倒しして実施する予定です。この場所は、雪が積もるとスタッドレスタイヤだけでは不安で、チェーンが必要になるのです。オーバーホールに関しては、初めてですので、タービンなどがどのような状態になっているのかドキドキしています。」
この発電所に関わるまでの経緯は?
「働いている人の中に地熱発電所の専門家だった人はいません。みんなそれぞれ違う職業から転職して来ています。ただ、再生可能エネルギーに興味があるという点では、同じだと思います。」
ドキドキしたこととは?
「雷が落ちて停電したことでしょうか。その時は、受電もできず緊急停止になり、放出される蒸気の音が大きくて驚きました。復旧までには、電気の抵抗を測ったり、壊れた部品を交換したりして、4日間くらいかかりました。トラブルの時の対処方法については、事前に三菱さんと一緒にマニュアルを作っていましたし、機械にはトラブルの記録が残るようになっていますので、そのデータを三菱さんと見ながら、原因の特定をしながら進めました。それがあってから雷への対策をしましたので、今後は雷による緊急停止はないと思います。」
今の課題は?
「ここを運転するときに必要なボイラータービン主任技術者の資格を持っている人が少ないので、資格を持つ人を増やすことが今の課題でしょうか。」
今後の展望など
「トラルブルなく運転を続けたいと思っています。それを考えた場合、定期検査が4年ごとというのは、少し長いのかなと思っています。」
おわりに
地熱発電は、試掘を始めてから実際に蒸気が出る井戸を掘り当てるまでのリスクが高いために、手を出す会社や団体が少ないという。町おこしエネルギーさんは、そこのリスクを引き受けつつ、蒸気が出た後は、自治体や企業などにお任せするフランチャイズ化まで計画している。アイディアと志で、エネルギー自給率アップという壮大な計画を実現させる。そんな町おこしエネルギーさんから目が離せない。
写真と文 西澤丞 取材は2026年8月に行いました。


