森で働く仕事、林業の現場に行ってきた。前編

林業 磯村産業株式会社 群馬県高崎市倉渕町 その1

はじめに

日本は、国土の2/3が森林で、自分が住んでいる群馬県も山ばっかりなんだけど、林業に関しては、なんとなくのイメージしか知らないことが気になって、実際の現場に行ってみた。

林業って、実際のところ、どうなの?

磯村産業さんの事務所があるのは、高崎駅から車で1時間ほどの、周囲を山に囲まれたのどかな地域。今回、お話を伺ったのは、所長である土屋啓介さん(2007年入社、37歳)。所長という肩書きと、「林業=高齢化が進んでいる」みたいな先入観から、年配の人を想像していたら、想像よりもはるかに若く、気さくな感じの人が現れて、びっくり。先入観は、いかんね。

林業の現場を見渡す人
現場を見渡す土屋さん。撮影初日、カメラにレンズを付けて顔を上げると、土屋さんが、なんともいい位置に立っていた。

さて、林業の基本的な仕事としては、木を植えて、育てて、出荷するという理解で基本的に間違っていないそうだが、具体的な内容となると、少々複雑だ。磯村産業さんは、1910年(明治43年)の創業当時に炭を生産していたこともあり、自社で所有している森林があるものの、土屋さんが入社する以前は、不動産業が収益の中心であり、林業は所有林を管理する仕事として位置づけられていたとのこと。また、当時は、働いている人の平均年齢が70歳前後だったそうで、私の「林業=高齢化が進んでいる」っていうイメージは、このあたりのものだったみたい。

「自分が就職してから10年くらいは、皆伐(区域内に植わっている木を全て切ること)はせずに、間伐(間引き)だけを行っていました。装備が整っていなかったこともあって、生産性が高くなかったんです。」

玉切り(木を所定の長さに切る)作業中の重機ハーベスタ。運転しているのは、細谷さん。

その後、林業を継続させてゆくためには、林業だけで事業を成立させる必要があると考え、機械を導入するなどの効率化を進めるとともに、徐々に若い人を採用するようになった。現在は、52歳から27歳までの6人体制で仕事をし、土屋さんが就職した当時よりも生産性が2倍から2.5倍に上がった。また、ここ2〜3年は、所有している森林の仕事だけでなく、国有林での仕事の入札にも参加し、攻めの姿勢に転じているようだ。お話を伺うと、就職した当時は、写真に写っているような重機は、全然無くて、チェーンソーで木を切って、斜面を滑り下ろすようにして木を運んでいたそうなので、そんなやり方じゃ、想像するだけで途方に暮れてしまう。そして、それが、10年ちょっと前の話だということも驚きだ。

ハーベスタでの伐倒の様子。

林業全体がそんな感じ?それとも磯村産業さんが特殊なの?

ここまでお話をうかがって、林業全体がそんな感じなのか、磯村産業さんの事情が特殊なのか、疑問が湧いた。

「収入のことだけ考えれば、伐採だけを請け負ってやるみたいな、請け負った仕事の中で収支を合わせれば、成立すると思うんですが、山を維持するってことを考えると、育てることもやっていかなければいけません。木を売ったお金で植え付けなどもまかなう。そこを目指しています。」

林業を行っている会社には、森林を所有せずに、請負仕事のみをやっている会社もある。請負仕事として考えた場合、発注者としては、市町村、県、国、個人所有者、そして、それらから森林整備の委託を受けている森林組合などがあり、仕事の内容としては、植え付けや木を育てること(保育)、間伐、皆伐などの様々な仕事がある。また、立木の伐採と販売する権利を入札などで買い、伐採した木を売って利益を得る立木販売(りゅうぼくはんばい)と呼ばれるパターンも存在する。

磯村産業さんの場合は、森林を所有しているものの、そこだけでは面積が限られているため、事業として回すための仕事量を確保するのが難しい。そこで、請負案件を増やすなどの対策を始めたところだ。現在は、作業効率を上げるために、機械の種類や使い方の試行錯誤をしつつ、販売についても見直しをしている。販売に関して言えば、従来であれば、市場に持って行って、その時の相場で売るしかなかった状態から、製材所との直接取引を増やすなど、販売単価を上げる努力をしている。生産性は、徐々に上がり、取引先も増えていて、3年後をめどに林業単体で成立させることを目標にしている。

直径を表す数字が書き込まれた木材。

ちなみに、木の値段って、樹齢40年から50年で、直径30㎝くらい、高さ20mくらいの木(電柱のようなイメージ)の場合、売値が7000円くらい(!)なので、その販売単価を上げることと効率化の両方が課題となっている。また、林業の役割は、単に木を切って売るだけではなく、森を整備するという側面もあり、その目的としては、水源の保全や洪水の防止、地滑りの防止、温暖化対策などが挙げられる。

一日の仕事が終わる頃、作業道の周りを片付ける作業が行われていた。

林業の現状を、調べてみた。

これを書いている途中で、日本の林業についてもう少し具体的なことを知りたいと思い、林野庁のウェブサイトを調べてみた。サイトには、杉や檜の植林は、高度成長期の木材需要に応える目的で、国の主導によって行われたと書いてある。となると、杉や檜が、どのくらい植えられているのかも気になるところだ。まず、森林の面積は、全国土面積の70%ほどで、そのうち人工林の面積が40%ほど。その人工林の中で杉や檜が植えられている面積は70%ほど。つまり、国土面積の20%ほどが杉や檜の森林という計算になる。また、当時植えられた杉や檜の多くが、今、収穫期を迎えているにも関わらず、木材の単価が下がったことや私有林の所有者が世代交代してしまって、伐採したくても手続きが煩雑になっているなどが課題として挙げられている。

※林野庁のウェブサイト内「スギ・ヒノキ林に関するデータ」や「森林・林業・木材産業の現状と課題」を参考にしました。

国有林の杉林は、こんな感じになっている。枝打ちは、節の無い木材を作るためには必要な作業だが、近年では木材が建物の表に出てくることが少ないため、重要ではなくなっている。また、杉の場合は、日陰の部分の枝は、勝手に落ちてくるので、作業に支障がなければ、枝打ちをしないことが多い。

なぜ、林業に?

ここまでお話をうかがって、土屋さん自身が、なぜ林業に就職したのか気になったので聞いてみた。

「僕は、東京の生まれなんですが、祖父が倉渕の人で、子どもの頃から盆や正月には遊びに来ていて山には馴染みがあったことと、学生の当時は環境問題なんかが注目されていたことやアウトドアが好きなこともあって、東京農大の森林総合科学学科に進学しました。その後、祖父が勤めていたのが磯村産業だったので、忙しい時だけ使ってもらえないか相談したところ、短期じゃなく正社員として雇ってもらえることになりました。当時、磯村産業では求人をしていなかったのですが、将来的なことを考え始めた時期だったようで、縁とタイミングがうまく合ったみたいです」

就職してすぐは、何の免許もないので、手引きの鋸とハシゴを渡されて枝打ちをしていたけれど、その後は、国が主導する研修制度が始まって、そこで色々なことを覚えたという。「技は、見て盗むもの」みたいな考え方は、そのあたりで終わったみたい。いいタイミングだったんだ。

仕事内容は?

「今は、事務仕事を中心やっていますが、元々は現場の作業をしていました。今でも現場に出られる状況であれば、現場に行く感じです。現場が好きなんで。事務仕事の内容は、入札に必要な書類や補助金を申請するための書類を揃えたり、勤務状況の管理をしています。入社2年目くらいから雨の日なんかに、出来る範囲で事務仕事をするようになって、5年目くらいからそれが徐々に増えてきました。所長になったのは、7年くらい前です。」

また、作業の効率化や重機の費用対効果を考えたりするほか、今後は、ドローンなどを使って、自社林の資源の管理を効率化させることも考えているそうだ。

レンタルで試用中の機材について、使い勝手を話し合う土屋さんと田中さん。この重機には、木を切るためのハサミのようなものが付いていた。

やりがいや苦労していることは?

「収益だけを考えれば、入札案件だけをやっていた方が儲かるかもしれませんが、祖父も関わった自社の山を放置しておくわけにはゆかないので…。やりがいが、沢山ありすぎます。」


磯村産業さんの所有林にあった、樹齢が100年を超えている木。このような大きな木は、一枚ものの板が必要な時や神社などの大きな建造物を作る時に必要になる。
 

土屋さんのお話を伺っていると、若くして所長になっているだけあって、目の前の仕事をどうするのかということだけではなく、林業のこれからをどうするべきなのか、常に考えているのが、ものすごく伝わって来る。また、おじいさんが、同じ仕事をしていたことや、林業という仕事の性質上、非常に長いスパンで物事を考えていて、時折出てくる「山を守る」という言葉が、それらを言い表しているように感じる。

現実を見たときに色々な問題があったとしても、それを解決するのを楽しんでいるようにも見える土屋さんは、最後に、

「この仕事が、ライフワークです。」と。

この一言が、林業に対する熱意を象徴しているようだった。



写真と文 西澤丞 インタビューは、2020年11月に行いました。この記事は、後半に続きます。