F2戦闘機のパイロットと整備士を、航空自衛隊百里基地で取材した!前編。

F2戦闘機のクローズアップ
F2戦闘機のパイロン

取材先:航空自衛隊 百里基地(茨城県小美玉市)
取材した人:写真家 西澤丞

はじめに

防衛に関しては、重要なテーマだと認識しつつも、これまで取材をする機会に恵まれなかった。ところが、このウェブサイトを立ち上げたことや世の中の状況が変化したこともあって、ようやく取材の機会をいただけることになった。筆者としては、初の自衛隊単独取材だ。 さて、今回、取材させてもらったのは、航空自衛隊百里基地に所属しているF2戦闘機と、その運用に関わっているパイロットと整備士の皆さんだ。記事が長くなってしまったので、整備士さんにインタビューした前編とパイロットさんにインタビューした後編に分けてアップするよ。

格納庫から引き出されるF2戦闘機

航空自衛隊の航空機整備士の仕事とは?

整備士としてインタビューに答えてくれたのは、立石賢司さん(40歳)だ。まずは、立石さんの仕事内容から聞いてみた。

「航空機の整備は、エンジンや電機、計器など色々な職種に分かれて行われています。各職種は専門職なので、エンジンを整備する人は、ずっとエンジン専門でやっています。私の職種は航空機整備で、F2の整備歴は3年目になります。以前はF15やF4を整備していました。今は、T4の整備もやっています。勤務地の異動はありますけど、職種としてはずっと航空機整備です。航空機整備員は、主として「飛行隊」と「検査隊」に配置されていますが、それぞれ整備作業が異なります。私が所属しているのは飛行隊で、約80人の航空機整備員が2チームに分かれています。飛行機を安全に送り出すのが主な仕事です。検査隊は、格納庫の中で飛行機の点検や部品の交換を行っています。」

立石さんが所属している航空機整備・飛行隊の仕事は、燃料を入れたり、タイヤを交換したりするので、ガソリンスタンドの仕事を少し複雑にしたような仕事だという。ちなみに、エンジンなどの部品を整備する専門職は、10種類くらいある。

1日の最初の仕事は、滑走路に小石や異物が落ちていないかを確認する仕事。
飛行機を、格納庫から滑走路まで移動させるには、牽引車を使う。

1日の仕事の流れは?

「フライトスケジュールが決まったら、それに合わせて仕事をします。夜間訓練やスクランブルにも対応しますので、時間は不規則です。朝は、滑走路の石拾いから始まり、ワークカードという点検項目に沿って、飛行機の点検をします。また、点検項目以外にもおかしな点が無いかを、常に確認しています。それから、飛行機の誘導もします。飛行機を、格納庫から出して格納するまでが仕事です。」

F2戦闘機のノズルを点検している様子
エンジンノズルや吸気ダクトの中もチェックする。

点検時に見つける不具合とは?

「航空機は機械なんですが、生き物だと感じることがあります。例えば、人が寒い日に風邪をひきやすいように、航空機も油圧が漏れることがあります。これは、先程説明した外部点検でわかる不具合ですね。また、撮影中に飛ばなかった飛行機は、補助エンジンを動かすためのパワーが足りなくて、飛行できない状態でした。格納庫内ではエンジンを始動できないので、駐機場に航空機を出して、エンジンを始動させて初めてわかる不具合も多くあります。ただ、F2は電気制御のため、エンジンを始動させて電力が供給されると、ここがおかしいですよって、航空機が教えてくれるんです。コックピットでも表示されますし、地上にいる整備員にもわかるようにできています。親切な飛行機なんですよ。」

キャノピーは、念入りに磨く。
気になる部分があれば、打音検査を実施する。

部品の交換などは、どんなタイミングで行なうの?

「タイヤであれば、摩耗度を見て交換します。エンジンは時間で管理していますが、各部品ごとに時間が違うので、難しいんですよね。なるべく同じ交換のタイミングの部品で組み立ててくれているんですが、交換しなければいけない部品があれば、それだけ交換して再搭載ってこともあります。そういったことは、機付長という各飛行機の整備の責任者が把握していますし、管理している部門もあります。また、メーカーに送って、車検のようなことをしてもらうこともあります。」

出発の時は、敬礼で見送る。

自衛隊で航空機の整備士になるには?

「航空自衛隊の場合、入隊後、教育隊で自衛官としての基礎を学び、卒業時に職種を選択します。そこから術科学校というところに入校し、整備士としての専門の勉強をします。その後、術科学校を卒業する時に配属される基地が決まります。職種の選択とか、配属される基地に関しては、人事上の都合がありますので、必ずしも希望が通るわけではありませんが、このような流れで航空機の整備士となっていきます。また、整備士には『3』、『5』、『7』といった技量レベルがあり、みんなその試験を受けています。術科学校を卒業したばかりですと、技量レベルは『3』です。『5』は、整備は一人前にできるけど、監督する立場ではありません。『7』になると監督として作業全般の把握ができるようになります。ここまでで、早くて4年弱くらいかかります。」

立石さんは、レベル「7」の資格を持ち、機付長でもある。機付長は、一つの飛行機を2〜3年間担当することになるので、担当している期間は、「誰々さんの飛行機だね。」って感じになるそうだ。

滑走路に向かってタキシング中のF2戦闘機
飛び立つF2戦闘機

パイロットとのコミュニケーションは?

「送り出しの時にも会話をしますし、アラート(スクランブルの待機)でも一緒なので、常に会話はしていますね。コミュニケーションを取らないと出来ない仕事なんです。コミュニケーションは、整備の中でも必要ですし、パイロットとの間でも必要です。この仕事は、みんながいて、成り立ってるんですよね。一人じゃ何も出来ないです。命を預かっている仕事なので。」

帰投したF2戦闘機
訓練から帰ってきた戦闘機を、駐機位置まで誘導している様子。

F2戦闘機は、整備しやすい?

「整備は、しやすいですね。ただ、内容は、F4やF15に比べて難しく感じます。電気的な飛行機なので、故障探求が難しいんです。自分たちは、細部の修理や部品交換などはしませんが、故障した原因を把握しておけば、エンジンや計器とかの専門職の人との連携もしやすくなって、仕事をスムーズに進められるようになります。」

F2戦闘機へのミサイルの搭載作業
火器を担当するチームが、訓練用のミサイルを搭載しようとしているところ。このミサイルは、ロックオンする機能だけなので、推進剤などは入っていない。

なぜ自衛隊の航空機整備士になったの?

「もともと航空自衛隊の教育隊の教官になりたかったんです。でも、その年は採用枠が無くて、希望が通りませんでした。そこで、どうしようかってなった時に、せっかく航空自衛隊にいるんだから、戦闘機に触りたいなと思ったんです。忙しいところがいいなあとも思ったので、その時、忙しいことで有名だった沖縄を、勤務地として希望しました。」

F2戦闘機のタイヤ交換作業
タイヤ交換。1日に3回くらいの訓練飛行があるので、帰投した機体は、次の訓練までに、全ての整備を終えなければいけない。

整備士に向いている人とは?

「向いていない人は、いないと思います。みんな向いてます。飽きっぽい人でも、やってみると好きになると思います。簡単な仕事も、難しい仕事もありますから。それに、努力したら努力した分だけ自分の成長があからさまにわかるんですよね。航空機の牽引でも、初めは苦手だった後輩が、簡単に格納庫に入れられるようになったのを見たら、すごいなって思います。」

酸素を充填している様子。F2は、自力でパイロット用の酸素を作れるが、予備の酸素を持っておく必要があるのだ。

整備の難しいところとは?

「経験の積み重ねですかね。2ヶ月に1回とか、3ヶ月に1回とかしかない作業があるんですけど、作業はみんなで分担するので、必ずしも自分がやるとは限らない。だから、そういった作業は、経験値を上げるのが難しいですね。忘れかけた時に、自分がその作業をすることになったりします。自分が苦手だなと思う作業があったら、やった分だけ楽になると思って、積極的に行動しないとダメですね。そうしないと、いつまでも苦手なままになってしまうので。」

救命装備品を整備している様子。
パイロンを整備している様子。

今の課題は?

「僕も、まだまだ勉強不足です。航空機整備の仕事は、常に勉強で、『極める』って言葉が当てはまらないですが、少しでも極められるように勉強を続けて行きたいと思っています。整備方法も、どんどん更新されていますから、以前はこうだったのにと思っても、変わっていたりしますので、本当に難しいんです。手ぶらで何もしなくていいみたいになりたんですけど、それは絶対にないので。」

どんな整備士を目指す?

「何を聞かれても答えられるような人になりたいですね。あとは、誰からも聞かれる人になりたいです。上からも下から聞かれやすい人。それから、職場環境も良くしたいですね。今も悪くはないんですが、もっと変えられるところは、あると思います。」

休日は何を?

「家族に全てを捧げています。今の仕事をしているのは、家族のためってこともありますけど、好きなことをやらせてもらってるのは、家族のおかげなので、理解してもらっている分を返したいと思っています。」

航空機の整備に興味のある人に向けて一言

「自分が、努力した分だけ結果がついてくるので、新しい自分を見つけられると思います。あとは、色々な所に移動しての訓練もありますし、色々な職種の人がいますから、人とのつながりは、ものすごく広がります。航空機の整備に興味のある人がいらっしゃれば、ぜひ、現場を見に来ていただきたいですね。」

インタビューに答えてくれた立石さん。
出発前にパイロットとやり取りをする立石さん。マイクとヘッドフォンは、有線で機体とつながっていて、パイロットと通信を行える。

おわりに

戦闘機を飛ばすというのは、こんなに大変なことなのか!

この百里基地には、F2戦闘機が20機ほど在籍しているだが、それに付随して救難機や練習機もある。空を飛ぶもの以外にも、消防隊もあれば、食事を作っている人もいる。今回取材させていただいたのは、百里基地に在籍する人たちのほんの一部でしかないのだ!

この記事は、パイロットさんにインタビューした後編に続くよ。

インタビューは、2023年2月に行いました。写真と文 写真家西澤丞

F2戦闘機のイメージ写真
F2戦闘機
F2戦闘機のノズル内部