道路を維持管理する仕事。冬の三国峠を取材した。

取材協力:国土交通省 関東地方整備局 高崎河川国道事務所(群馬県高崎市)
取材協力:沼田土建株式会社(群馬県沼田市)

はじめに

群馬県から新潟県に向かう三国峠(国道17号)は、道のりが険しいことや冬季の積雪により、県内でもかなり厳しい峠として知られている。そこで、除雪作業を撮るならここだろうと思い、取材させてもらうことにした。

記事の前半は撮影記とし、後半は撮影記に盛り込めなかったことを書いてみた。なお、道路や除雪作業の概要については、国土交通省 高崎河川国道事務所 沼田維持修繕出張所の沼部堅太さん(56歳)に伺い、実際の除雪作業に関しては、沼田土建株式会社の田村勝さん(48歳)に教えてもらった。

取材した道路と除雪作業の概要

上の図の赤い線が群馬県の県境で、取材させてもらった除雪車の拠点は、群馬県みなかみ町にある猿ヶ京スノーステーションだ。この拠点の受け持ち範囲は、群馬県渋川市にある吾妻新橋から新三国トンネルを抜けた先の数メートルまでの50.8kmだ。

除雪作業は、気温と路面の温度が0度以下になる恐れが出てきた時点を目安として、凍結防止剤(融雪剤)の散布を始め、一度雪が降ってしまえば、そこからはずっと稼働することになる。どれくらいの人員を投入するかは、現場からの報告や天気予報などを勘案して、最終的には、国土交通省 沼田維持修繕出張所の所長が判断する。

撮影記

当初、除雪作業だけを取材させてもらおうと思っていたのだが、予想外の展開になったので、その時の様子を撮影記にしてみた。

撮影1日目

例年であれば、12月から雪が降り始めるので、その頃から撮影できるだろうと予想していた。しかし、今年は暖冬で、1月半ばになってようやく撮影の機会が訪れた。この日は、天気予報通りに午後から雪が舞い始め、僕が現地に着いた時には、凍結防止剤(融雪剤)を散布する車が動き出していた。

凍結防止剤散布車。凍結防止剤(融雪剤)を、車体の後部から散布する。散布する量や範囲を調整しながらの作業だ。
車体後部にあるタンクに凍結防止剤を補充している様子。

撮影2日目

暖機運転をしながら作業員さんを待つグレーダ。

撮影2日目の朝。駐車場には、暖機運転をする車両の音が響き、事務所は慌ただしい雰囲気に包まれていた。降雪の予想が当初のものよりも厳しくなったらしく、交通規制の可能性が出てきたのだ。交通規制をかけるとなれば、除雪以外に誘導員などが必要になるので、人員の手配をしなければいけない。OBや自営の人など、応援してくれる人たちへの連絡が始まった。

出発を待つ凍結防止剤散布車。夜の間も仕事をしたんだね。
この日の日中の作業を担当するチームのミーティング。
ミーティングの後、交通規制に関する電話連絡が始まった。

この時点では、まだ交通規制をするかどうかは決まっていなかったので、とりあえず除雪作業を撮影させてもらうことにした。事前に撮影ポイントとして調べておいた道路沿いの待避所は、「雪で埋もれて使えないよ。」ってことだったので、スノーステーション近くの安全に撮影できるところまで連れて行ってもらった。

グレーダは、2台1組で行動し、1台目がセンターライン寄りを除雪し、2台目が、道路脇を行う。ブレードの地面に接する部分は、12時間ごとに交換しなければいけないほど摩耗する。猿ヶ京スノーステーションから新三国トンネルまでを往復すると3時間かかるので、4往復したら交換だ。

2台目の後ろには、何やらクシのようなものが付いている。ブレードで圧雪を削ると鏡面のようになってしまって、スリップしやすくなってしまう。そこで、削った後、このクシ(粗面形成装置)を使って表面を荒らすのだ。

ロータリ除雪車

道路の端に集まった雪を、ロータリ除雪車が除雪する。ロータリ除雪車のスピードは、時速10キロ未満であるものの、ガードレールから20センチくらいのギリギリを走らないといけないし、ロータリ部分が何かに当たってしまったら大変なので、運転が難しく、神経を使うそうだ。また、雪を飛ばす方向にも注意が必要で、間違って家などに当ててしまえば、窓ガラスが割れてしまう。上の写真では、雪を車体の左側に捨てているが、反対車線の外側に飛ばすこともあるそうだ。

猿ヶ京スノーステーションの向かい側にあるパーキングエリアにて、交通規制の段取り会議が行われていた。

除雪車の撮影をしている間に、10時から三国峠を通行止めにすることが決定した。除雪を請け負っている沼田土建株式会社のチームに国土交通省の人たちも合流して、段取りの打ち合わせが始まった。

パーキングエリアの入り口付近にて。

通行止めを知らずに峠に向かってきた車には、パーキングエリア内でUターンしてもらう必要があるので、まずは、パーキング内へ誘導するための標識を設置する。雪が強くなると視界が悪くなるので、電光掲示板を備えた車(標識車)も用意されていた。

通行止めの最中は、ずっとこんな感じで見通しが悪かった。

この日は、群馬から新潟に抜ける関越自動車道(高速道路)が、通行止めになってしまったため、一般国道である17号も通行止めとなった。高速道路を避けた車が17号に流れてきてしまうと、立ち往生してしまう可能性が高いのだ。17号の三国峠は、関越自動車道よりも斜度(道路縦断勾配)がきついため、関越自動車道なら通過できる車両であっても、三国峠を越えられない場合があるのだ。例えば、荷物を積んでないトラックがスタッドレスタイヤしか装備していない場合、途中で登れなくなってしまうことがある。近年、雪の道路で車が立ち往生するニュースを見る機会が多いので、安全を確保するためには、通行止めもやむをえない。

猿ヶ京パーキングエリアから外を見てみるとこんな感じ。
1時過ぎ。渋川方面に行っていたグレーダが帰ってきた。
雪が小降りなり、作業員さんがグレーダから降りてきた。
3時過ぎ。赤谷川大橋を渡って猿ヶ京スノーステーション方面に向かう除雪トラック。

この日の通行止めは、午前10時に始まって、午後2時に解除された。ただ、通行止めが解除された後も、雪が止んだわけではないので、僕が撮影していた夕方の時点では、除雪作業が続いていた。

撮影記には、盛り込めなかったこと

さて、ここからは、伺った話の中で、撮影記に盛り込めなかったことを書いてみる。

現場で作業をしていた沼田土建の田村さんに聞いた話。

・除雪する時に気をつけていることとは?
「橋のジョイントやマンホールなどの突起物は、毎年状態が変わるので事前にチェックしてみんなで情報共有しています。ブレードが何かに引っかかるとものすごい衝撃で、ボルトが飛んでしまうんです。そのボルトは、力が加わると折れるようになっているんですが、折れてしまったら、取り付けるのに結構苦労します。また、除雪をする時には、ブレードを進行方向に対して斜めに、つまり左側を少し後ろに引いた位置にするんですが、そうすると車体が右側に行こうとするんです。だから、反対車線にはみ出ないように、常に注意しています。あんな大きいの(グレーダ)が、反対車線に飛び出したら大変ですから。」

・除雪車を運転するために必要な免許は?
「私が持っているのは、大型、大型特殊、車両系建設機械です。除雪車を運転するだけなら、大型と大型特殊があればいいんですけど、ブレード(排土板)を操作するには、車両系建設機械の免許が必要です。車両以外では、チェーンソー、高所作業、クレーンの免許を持っています。道路の維持管理をするには、たくさんの免許が必要です。」

・勤務形態は、どんな感じ?
「雪のない季節は、昼間の勤務だけで、特に問題がなければ、8時間勤務です。12月から3月までは、昼と夜の2交代を10日間ごとに交代します。この時も基本的に8時間勤務ですが、今回のように雪がたくさん降る日は、残業で12時間勤務になる時もあります。」

・ 除雪以外の仕事について。
「事故でガードレールが壊れてしまった時の修理や雨の後の排水溝の掃除などをします。夏は、ひたすら草刈りです。」

・仕事のやりがいとは?
「この辺りに住んでいる人は、雪が降ると『国道に出ればなんとかなる』と思っているんです。だから、その期待に応えられるようにしています。それから、スタックした車を助けたりした時に、感謝の言葉をかけてもらえるとうれしいですね。」

路面温度なども書かれた天気予報。

国土交通省 沼田維持修繕出張所の沼部さんに聞いてみた。

・国土交通省さんの仕事とは?
「私の仕事は、管理係と言って許認可に関する書類のチェックなどを行っています。また、2日に1度、道路のパトロールに出て、補修しなければいけないところを見つけた時には、その修理の手配をします。また、住民の皆様からのご意見も伺います。これは、主に草刈りの要請が多いですね。今は、道路の維持管理に関する予算が少ないので、草刈りは年に1回しかできませんし、刈る範囲も歩道の端から1mの範囲になってしまっています。道路の清掃も年に1回しかできませんから、砂利が残ってしまって排水溝が詰まったりします。全てのことができるわけではありませんので、安全を確保する作業を優先して行っています。」

・交通規制は、どんな時に?
「今回は、雪でしたが、大雨や台風で止める時もあります。雨は、連続で150ミリを越えた場合には、ゲートを閉じてしまいます。」

・仕事をする上で気をつけていることとは?
「安全な道路にしたいと思っていますので、パトロールをするときは、色々なところを注意しています。道路の穴のような大きなことは、もちろんですが、道路に木の枝が掛かってないかとか、反射板が壊れていないかなどといった細かなことにも目を向けています。また、業者さんに発注するまでもない小さなことを、1か所でも2か所でも見つけて自分で改善するようにしています。」

国土交通省の沼部堅太さん
沼田土建の田村勝さん

おわりに

三国峠は、やっぱり厳しかった。きちんとした装備をするのは、当然のこととして、大雪警報が出ているような時には、遊びで峠を越えるのは、やめた方がいい。取材した日は、途中でスタックしてしまった車がなく、通行止めに対して文句を言う人もいなかったそうなので、まずは、よかった。

写真と文 西澤丞 インタビューは、2024年1月に行いました。