鉄道車両を整備する仕事。ぐんま車両センターの場合。

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取材協力:JR東日本 高崎支社(群馬県高崎市)
取材者:西澤丞

はじめに

以前、ぐんま車両センターで蒸気機関車の整備作業を取材させてもらったことがあったけど、それ以外の仕事も気になったので、気動車キハ110系の定期検査を取材させてもらった。お話を伺ったのは、伊藤正次さん(45歳)と加瀨田航己さん(23歳)だ。なお、記事の最後には、キハ110系の車輪交換やディーゼル機関車「DD51」へのエンジン搭載の写真も掲載しておくよ。

JR東日本高崎支社ぐんま車両センターの内観

ぐんま車両センターで整備している車種について

具体的な作業内容を紹介する前に、ぐんま車両センターで整備している車種について説明しておこう。在籍している車両は、以下のようになっている。

・蒸気機関車
イベント列車「SLぐんま」に使われている蒸気機関車で、D51 498とC61 20が在籍している。

・客車
「SLぐんま」等に使われている客車だ。旧型客車(茶色の車体)と12系客車(青色の車体に白のライン)の2種類がある。(注、旧型客車にも1両だけ青色の車両があるよ。)

・気動車
キハ110系

・ディーゼル機関車
DD51形とDE10形、DE11形。なお、DD51形は、廃車が進み、JR東日本では、ここにある2両を残すのみとなっている。

・電気機関車
EF65形とEF64形

・GV-E197系電気式気動車 
保線作業(砕石輸送や砕石散布作業)などに使われている、新しい車両。エンジンで発電して、モーターで駆動する車両だ。

ふ〜。めちゃくちゃたくさんある。電車以外は、なんでもあるイメージだ。ぐんま車両センターでは。エンジンを分解するような大掛かりな作業は行われていないが、それでも覚えなきゃいけないことは多そうだ。

気動車キハ110系の連結器

気動車「キハ110系」の定期検査

キハ110系は、群馬県高崎市と東京都八王子市を結ぶ路線である八高線の中で、非電化区間となっている高崎~高麗川間で運行される車両だ。モーターではなくエンジンで動くので、実際に乗ってみると、まさにガッタンゴットンって感じだ。

さて、撮影させてもらった定期検査は、90日ごとに行う検査で、「交番検査」と呼ばれている。この定期検査は、車で言うところの車検に相当するものなので、フィルター類の交換や注油作業を中心に、痛んでいる箇所や不具合の有無を確認、修繕する作業となる。通常は、車内を点検するのが1人、足回りを点検するのが2人といった3人体制で、1両を1日かけて検査する。ただ、チーム編成やどこを担当するのかは、当日の人員や仕事量によって変動する。

鉄道車両と整備士

室内の点検

室内の点検は、電気的な点検を中心に、操作するハンドル類や扉などの動作確認が主な作業だ。動く箇所には、注油も行う。

車両の状態や運転に必要な情報を、簡易的に表示するモニターの確認中。
運転席の操作盤を取り外して内部を点検する。

足回りの点検

鉄道車両-安全装置の点検
列車を安全に運行するために重要な装置である「A T S―P」の動作確認をしている様子。「A T S―P」は、何かのトラブルで速度が出過ぎてしまっているような場合には、自動でブレーキをかけてくれる重要な装置だ。

特に気をつけているポイントとは?

伊藤さん:「車輪とブレーキは、安全に直接関わってくる部分ですので、特に注意しています。ブレーキに関しては、制輪子(ブレーキパッド)と車輪の隙間を注意して見ています。制輪子が減ってくると自動で送り出してくれる仕組みになっているんですけど、隙間が広くなりすぎると送り出しが追いつかずに、ブレーキが効かなくなってしまいます。また、隙間が狭くなりすぎると動かなくなってしまうので、それはそれで問題です。また、電車と違ってエンジンによる振動があるので、それによるネジの緩みなどは、気をつけて見ています。金属同士がねじれたりして金属疲労もありますから。」

加瀨田さん:「僕は、元に戻すことを意識しています。点検では、蓋を開けたり、スイッチを操作したり、コックを開けたりしますが、それを戻し忘れると車両が動かなくなったりいろいろな不具合が発生してしまいます。ですので、仕事をする時だけではなく、普段の生活でも、元に戻すことがクセになるように心がけています。さすがに、家で指差し確認まではしませんけど(笑)」

鉄道車両-圧縮空気の点検
扉の開閉等に使用する圧縮空気の圧力を調べている様子。

難しいこととは?

伊藤さん:「最近の車両は、設計の際に部品の共通化が進められているのですが、ここの車両は、それぞれがバラバラなんです。機能が同じでも、考え方が全く違ったりしますので、それを覚えるのが大変です。また、電気的な故障は見つけるのが大変であるのに対して、機械的な故障は、部品が大きかったりしますので、直すのが大変です。」

加瀨田さん:「定期検査では、行う作業が決まっていて、大きな部品を外したりする作業はないんですが、電気的に絶縁が悪いことはあります。そうなると、原因を調査したり、いつもと違う作業が発生してしまうので、限られた時間の中で対応するのが大変です。大体は、車体の外側の機器であることが多いのですが、スムーズに見つけられないこともあるので、そういう時は、難しいです。」

気動車-電気連結器の清掃
電気連結器を整備している様子。ここが汚れていると機器が正常に作動しなくなってしまうので、接点を一つずつ掃除してゆく。

仕事をする上で大変なこととは?

伊藤さん:「大変なことと言えば、自然災害ですかね。たとえば、大雨が降ったとします。そういう時は、不具合のあった車両を雨の中で整備しなければいけなかったりするんです。また、水上(みなかみ・群馬県の北部)などでは雪が降りますから、パンタグラフに雪が積もって上がらなくなってしまうことがあるんですね。だから雪が降っている最中に、屋根に登って雪を下ろさなければいけないんです。」

気動車-エンジン
キハ110系のエンジンの一部。白い筒状の物は、新しいものに交換された潤滑油や冷却液のフィルターだ。
バッテリー液の補充。
エンジンと発電機を繋ぐベルトの張り具合を点検している様子。
エアフィルターの清掃
エンジンのエアクリーナーを掃除している様子。エアクリーナーは、エンジンに取り込む空気からチリや花粉などを除去するための装置だ。

仕事のやりがいとは?

伊藤さん:「いろいろなやりがいがあるんですけど、自分たちが思ったよりも早く故障対応が出来た時には、やったなって思いますね。逆に遅れるとシュンって感じです。」

加瀨田さん:「不具合を見つけたり、直したりするときにやりがいを感じますね。『なんでこんなことが起きるの?』ってこともありますから、そういう時に先輩と協力して『ここが悪いんじゃないの?あそこが悪いんじゃないの?』って言いながら探して、『ここだ!』ってわかった時に、なんかスッキリするというか、やりがいを感じますね。もちろん直すのが仕事なんですけど、原因を見つけるのにも知識や技能が必要になりますから、電気回路図面などを思い浮かべながらスムーズに原因を見つけられるようになってくると、『なんか成長したな』っていう達成感を感じます。」

打音検査
ボルト類は、一つずつ全て打音検査をして、緩んでいないことを確認する。
インタビューに答えてくれた伊藤さん
インタビューに答えてくれた加瀨田さん

加瀨田さんの個人的な話

加瀨田さんが入社2年目だと伺ったので、この職業に就いた理由など、個人的な話を聞いてみた。

なぜ、この仕事を選んだの?

「小学校も中学校も線路がそばにあるような環境でしたし、友達に鉄道好きな人がいたりしたので、自然と鉄道が好きになりました。そこで、好きなことを仕事に活かしたいと思って、この会社に就職しました。」

入社してからは、どんな教育があるの?

「まずは、新入社員研修ですね。これは、社会人としての教育と会社を知るための教育です。そのあとは、9ヶ月間、車両基礎技術教育というのがあります。ここでは、さまざまな車両の機器やその動作原理などを勉強します。その後、ぐんま車両センターに戻ってきて、主にキハ110系の交番検査に携わっています。客車やGV-E197系電気式気動車の検査にも見習いとして参加して勉強しているところです。最終ゴールは、SLみたいです(笑)」

工具

今、興味のあることとは?

「今は、客車に興味があります。客車は、機関車から動力をもらっているんだろうと思っていたんですが、12系車には、冷暖房や電気を賄うエンジンがついていると知って、興味が湧きました。」

12系客車とは、「SLぐんま」に使われている青色の車両だ。同じく「SLぐんま」に使われている茶色の旧型客車には、バッテリーしかついていない。

今後の課題は?

「課題は、たくさんありますが、パソコン関係に強くなりたいと思っています。ぐんま車両センターは、ペーパーレス化を進めなければいけない状況になっていますので、学生時代に培ってきた技能を生かして、アプリ作成やデータ整理等をやってゆきたいと考えています。」

どんな整備士を目指す?

「『あの人に聞けば大丈夫』って思われる人になりたいですね。今は、まだ遠く及ばないですけど、少しずつ近づいてゆきたいと思っています。」

点検終了後、配電盤には封印をする。
検修副長の立ち会いのもと、最終確認が行われる。

鉄道関係への就職を考えている人に伝えたいことはありますか?

「あまり気負わなくていいと思います。自分の場合は、この業界に落ちても別の業界を受ければいいと思っていました。『このジャンルに行きたい!』って一本に絞っちゃうことが多いと思うんですけど、鉄道以外に、例えばゲームが好きだったら、ゲーム会社も視野に入れてもいいと思います。就職活動の時って、視野が狭くなりがちなんですよ。そうすると面接でもうまく言葉が出て来なくなっちゃうんで、あんまりカツカツせず、趣味も全力でやる方がいいと思います。」

点検終了
点検が一通り終わった!お疲れ様でした!!

おわりに

道の駅みたいな産直市場で売っている農作物には、「私が作りました!」なんて、写真と一緒に文章が添えられていることがある。買う方としては、誰が作ったのか分かっていると安心感があるし、ちょっとしたこだわりなんかが書いてあると、ついつい手に取ってしまう。

今回の取材は、鉄道だったんだけど、この人たちが整備してくれているんだと思うと、鉄道のありがたみが増すし、親近感もわく。色々なものがブラックボックスの中に入ってしまっている世の中だからこそ、働いている人の「顔が見える」ってことは、実際の質と同じように大切なんだと思う。

写真と文:西澤丞 インタビューは、2023年11月に行いました。

さて、ここから下には、定期検査以外の作業として、キハ110系の清掃、車輪の交換。それに、ディーゼル機関車DD51のエンジン搭載作業の写真を掲載しておくよ。

鉄道車両の清掃-洗車機
鉄道車両の清掃
鉄道車両-車輪の交換
鉄道車両-車輪の交換
鉄道車両の車輪
DD51
DD51のエンジンの一部
DD51のエンジン搭載の準備
DD51のエンジン搭載
DD51のエンジン搭載作業
DD51のエンジンカバー取り付け