剪定された枝葉から電気を作っているバイオマス発電所に行ってきた。

はじめに

今回の取材は、三菱重工パワーインダストリーさんとのコラボ企画だ。

三菱重工パワーインダストリーさんは、ボイラー・タービンからなる発電設備を扱っている会社なので、その納入先を取材させていただきつつ、製品がどんなところで使われているのかを紹介する内容だ。この企画は、今後、不定期で継続することになると思うが、今回は、その第1弾ってことで、バイオマス発電をしている名古屋港木材倉庫さんを取材した。

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取材先:名古屋港木材倉庫株式会社  NPLWバイオマスパワープラント
取材協力:三菱重工パワーインダストリー株式会社
取材者:西澤丞

名古屋港木材倉庫さんについて

名古屋港木材倉庫さんは、大正時代から港湾運送業を運営する会社であったが、時代の流れに沿って、木造建築物を解体した時に出る木質系廃棄物の中間処理を始め、そこからバイオマス発電にも取り組むようになった。この記事でも、先に木材の中間廃棄物処理の仕事を紹介し、その後、バイオマス発電について紹介しようと思う。

なお、取材に対応してくれたのは布目上さん(48歳)だ。リサイクル工場の工場長とバイオマス発電所の所長を兼任しているので、上工程から下工程まで、仕事内容をわかりやすく教えてくれた。

木造建築から出る廃棄物の中間処理の様子

リサイクル事業について

木材の中間廃棄物処理とは、具体的にどんなことをしているのか?

この会社では、木造建築物を解体した時に出る木材や木製家具、街路樹などを剪定した時に出る枝葉を、受け入れている。それらは、選別した後、細かく砕いてチップ状にし、製紙会社や他のバイオマス発電所に販売している。つまり木材のリサイクルやリユースに貢献しているってことだ。

建築物の廃材には、金物や異物がついているので、手作業で外す。この作業は、機械で行うことが出来ず、一番手間がかかるとのこと。実際、数人がかりで作業が行われていた。
破砕機へと続くベルトコンベアに、重機を使って木材を投入している様子。
破砕機の全景。破砕機の周りには、ふるいをかける機械やベルトコンベアなどが複雑に絡み合っている。
破砕された後、細かな金属などが強力な磁石で選り分けられて出てきた。
木質系廃棄物から作ったチップ
破砕された廃材を水に浮かべると、重い金属などは下に沈むので、異物が完全に分離されて、きれいなチップになって出てきた。

リサイクル事業を始めた当初は、建物を解体した廃材のみを扱っていたそうだが、名古屋市ごみ非常事態宣言が発令された頃から剪定された枝葉も扱うようになった。この辺りの経緯は、バイオマス発電のところで、もっと詳しく書こうと思う。

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バイオマス発電事業について

バイオマス発電とは?

バイオマス発電って、名前は聞くけど、そもそも何のことなのか、よく分かっていないので、その辺りから聞いてみた。

「化石燃料を使わない火力発電所ですね。バイオマスとは、生物由来の燃料のことです。ここでは、剪定された枝葉を燃料に使っていますが、他には、食物残渣や動物のフンを発酵させてメタンにして燃やしているところもありますし、トウモロコシやサトウキビを燃料にしているところもありますね。」

この発電所の出力は、1990キロワットで、一般家庭の使用量に換算すると4000世帯分になる。電力会社が使っている液化天然ガスなどを燃料とした火力発電所だと、40万キロワットなどといった出力なので、ここは、かなりコンパクトな発電所だ。

廃棄物中間処理場に運び込まれた剪定枝葉
持ち込まれた剪定枝葉。

燃料について

名古屋港木材倉庫さんが行っているバイオマス発電の燃料は、ほとんど街路樹などを剪定した時に出る枝葉だ。会社としては、先も見ていただいたように建築廃材も扱っているので、一緒に燃やしても良さそうに思えるのだが、バイオマス発電で作られた電気は、何を燃料にしたかによって、買取価格が違うので、色々な種類の燃料を混ぜて燃やすことはできないのだ。バイオマス発電で作った電気の買取価格は4段階あって、剪定枝葉を燃料とした場合は、下から二番目の価格だ。一方、建築廃材を燃やすと一番安い買取価格になってしまう。買取価格が4段階もあるのは、燃料を調達した時に発生するお金のやりとりが考慮されているからだ。購入した燃料で発電した場合は買取価格が高くなるが、お金をもらって引き取った燃料の場合は、引き取った時の値段に応じて、電気の買取価格が安くなるように設定されているのだ。

剪定枝葉を下処理している様子
木の根など、大きめのものは、破砕機に入れる前に重機で砕いて小さくする。

燃料となる剪定枝葉は、名古屋市内で発生したものに限られ、造園業者さんが中心となって持ち込んでくる。1日に燃やす量は、80トンほどで、年間にすると3万トンくらいになる。また、発電所の近くで発生した廃棄物から発電をしているので、エネルギーの地産地消にもなっている。

剪定枝葉をベルトコンベアに投入する様子
破砕機への投入は、ここでも重機が使われている。工場のあちらこちらで、重機やトラックが動き回っている印象だ。
ふるい分けられた燃料チップ
破砕されたチップは、三つに分類されて出てくる。右の山は、チップダストと呼ばれる砂などが混じったもの。これは、燃やさない。真ん中の山が燃料となるもので、チップの大きさは、50ミリ程度。左の山は、50ミリより大きなチップで、こちらは再度、破砕機に掛けられる。

ごみ焼却場との違いについて

ごみ焼却場でも剪定枝葉を燃やしているが、そこでは、重油を燃料としたバーナーを使って燃やしている。ここでは、生木をどのようにして燃やしているのだろうか?

「ごみ焼却場やバイオマス発電所では、ストーカーボイラーか流動床ボイラーのどちらかのタイプが使われることが多く、ここでは流動床ボイラーというものを使っています。流動床ボイラーは、炉の下の部分に砂が溜まっていて、そこに下からエアーを入れます。エアーでバブリングさせた砂をバーナーで熱してからチップを投入するとチップが燃えるわけです。700〜800℃くらいの熱い砂の中でチップを燃やす仕組みになっています。チップが燃えているうちは、バーナーを使用しません。」

点火の時には、重油を燃やして砂を温める必要があるが、チップが着火してからは自然に燃える仕組みになっているのだ。生木なんてどうやって燃やすんだろうと、ものすごく不思議だったので、仕組みを教えてもらってスッキリした。ただ、この仕組みでも、梅雨時に運び込まれる剪定枝葉は水分を多く含んでいるので燃えにくく、発電効率が下がるという苦労があるそうだ。

発電所脇のチップ置き場。ここには二日分の燃料を置いておくことができる。
燃料を運ぶクレーンは、自動制御で動く。チップを掴んで、ボイラーへとつながるベルトコンベアへ投入する。

難しいこととは?

「一番苦労したのは、破砕です。生木の受け入れを始めたのは、1999年からなんですが、破砕機に入れてみたら、全然破砕できないんですね。解体した木材であれば、破砕機の中にあるハンマーで割れるんですけど、生木は柔らかいので同じハンマーで叩いても割れないんです。そこで、中のハンマーの形や材質を色々変えながら10年くらい研究しましたし、今でも試行錯誤しています。改善、改善ですね。破砕に関しては、他社さんも研究していると思いますので、当社の技術は企業秘密です(笑)」

バイオマス発電プラント
下から見上げたバイオマス発電プラント。上に向かって伸びている四角いパイプのようなものは、流動床ボイラーで使っている砂を循環させるためのエレベータだ。
バイオマス発電プラントの起動
取材した日は、メンテナンスのために止めていたボイラーを起動する日だったので、バルブを操作するシーンを撮ることができた。

生木からのチップを作るようになったので、バイオマス発電を始めたの?

「いえいえ、剪定枝葉を受け入れるようになった頃は、生木から作ったチップは、主に牧場や養豚場などに堆肥原料などとして販売していました。従来の燃料チップユーザーさんは、解体から出た廃材の方が含水率が低いので、生木が混ざったチップは受け入れてもらえませんでした。ただ、2008年にリーマンショックが来て、建設がバタッと止まって、解体も減ってしまったんですね。そうすると解体から出る廃材も無くなってしまいますから、ユーザーさんが生木の混ざったチップでも受け入れてくれるようになったんです。そうなると我々も生木を出せるところがあるなら、もっと積極的に集めようってことになり、扱い量をどんどん増やしてゆきました。その後、2012年ごろには、世の中で環境に対する意識が高まって来たことから、名古屋市さんから『発電所もやってよ。』と相談を受けるようになり、自社で処理することを検討するようになりました。また、2015年くらいになると、生木のような含水率の高いものを燃やすボイラーの技術が進歩して来ましたので、我々も取り入れようかという話になったんです。」

バイオマス発電プラントの全景。左手前にある箱のようなものは、排煙から灰を取り除く装置。ボイラーは、煙突の右側奥にある。
右手前に写っているのは、発電に使った水蒸気を冷やして水に戻すための復水器。

三菱重工パワーインダストリー製のボイラーを選んだ理由は?

「他の会社も検討していたんですが、大きなボイラーしか扱っていなかったり、ストーカーボイラーしか提案してくれなかったりして、行き詰まっていたんですね。そんな時に、お客さんが『三菱さんが、2メガ(2000キロワットクラスのボイラー)やってるよ。』って教えてくれたんです。そこで、問い合わせたら『すぐ提案します』って言ってくれたんです。」

三菱重工パワーインダストリーさんとしては、間伐材を燃料としたタイプを作ったことはあったが、剪定枝葉を燃料に使うボイラーは初めてだったので、お互いに挑戦する意味合いもあったようだ。設計に際しては、ここで作られているチップを分析するところからはじめ、効率よく燃やせるボイラーを考えてもらった。今は、実際に稼働させながら、その設計が正しかったのかどうかってことを検証している段階だ。ボイラーには稼働状況をリアルタイムで共有できる装置が取り付けてあって、三菱重工パワーインダストリーさん側でも、それをモニターしている。

ボイラーの状況は、写真に写っている機器でモニターしている。この機器は、無線でデータを送るので、複雑な配線を行う必要がない。
制御室の様子。24時間、365日、ボイラーを監視し続けている。

循環型社会に関する将来的なビジョンは?

「今行っている剪定枝葉を燃料にするバイオマス発電は、カーボンニュートラルやカーボンオフセットっていう考え方に基づいているんですが、それは、使った分を植林してこそ、成立するものです。だから、植林を人任せにするのではなく、自分たちでもやっていかないと本当の意味での循環型社会とは言えないんじゃないかと考えています。当社だけで出来るわけではありませんが、可能性は常に探っています。」

バイオマス発電所の発電機室
発電機室。ボイラーで温めた蒸気でタービンを回して発電する。

布目さんに個人的なことも聞いてみた。

取材に対応してくれた布目さん。音楽が趣味で、休日には人前で音楽活動をすることもあるそうだ。

・仕事のやりがいとは?

「自分たちで課題を見つけて取り組むことですかね。自ら茨の道を選んじゃうところがありますね。新しいことをやろうとするとハードルが高かったりするんですけど、それを乗り越えてゆくこともやりがいにつながります。入社した当時の上司が『チャレンジなくして進歩はないぞ』っていう口癖の方で、その人の下で育ったんで、僕もそんな感じになっちゃいましたね。」

入社の動機とは?

「もともと、この会社に入る気は全くなくて…。音楽をやっていたものですから、それで生きてゆくつもりでいました。ところが、ある時、父親が、今の会社との面接をセッティングしてくれて、「お前、面接だけ受けろ。」って言うんですね。で、親の顔を潰すのは、まずいと思って渋々行ったら、もう入社が決まっていて『明日からチップ工場に行ってね。』と。当時は、年配の荒くれ者の人の中に若者が一人だけという状況でしたので、辞めることばっかり考えていました。でも、その頃、ちょうど会社が始めた生木の仕事を任されたものですから、だんだんと責任感が芽生えて来て、そこから自分ごととして捉えるようになりました。」

剪定枝葉から作った燃料用のチップ。

生木の扱いをどうやって軌道に乗せたのか?

「生木を任された時は、まだ周知されていなかったものですから、お客さんが全然来なかったんです。近所の造園屋さんたちと仲良くなるとことから始めて、他の造園屋さんを紹介してもらったり、営業に行ったりした結果、口コミで広がってゆきました。また、名古屋市の指定工場にもなっていましたので、そこからの広がりもありました。ただ、当時は、破砕能力がまだまだでしたので、あんまり一気には広げられなかったんです。たくさん来ても対応できなくなってしまいますので…。破砕技術を進歩させることと受け入れ量と販売先をバランスさせることが大変でした。リサイクル事業の永遠のテーマですね。」

将来の展望などがあれば。

「エネルギー関係では、小水力発電などにも興味はありますが、うちは国内の仕事しかやっていないものですから、外貨を稼ぐ仕事や海外進出するような新規事業を考えないといけないと思っています。」

バイオマス発電所のイメージ写真

おわりに

「茨の道を選んじゃうんですよ。」と笑う布目さん。「チャレンジなくして、進歩はないぞ。」と言っていた先輩。挑戦する気持ちがなかったら生木を使った発電所を作ろうなんて話にはならなかっただろうし、この会社が時代の流れを掴んで業態を変化させることもなかっただろう。やっぱり、挑戦しようっていう気持ちは大切だね。

撮影と文 西澤丞 インタビューは、2023年9月に行いました。