陸上自衛隊のヘリコプター部隊を取材させてもらった。
取材協力:陸上自衛隊 第12旅団 第12ヘリコプター隊(群馬県)
取材者:西澤丞
はじめに
自分の家の上空を、陸上自衛隊のヘリコプターが飛んで行くことがあるので、どんな人が飛ばしているのか気になって、取材させてもらうことにした。
取材させてもらったのは、相馬原駐屯地に所属する第12ヘリコプター隊だ。相馬原駐屯地は、榛名山の中腹にあって、ヘリコプター専用の滑走路を備えている。
この記事の写真は、飛行訓練を中心に、他の訓練や式典で撮影した写真を組み合わせている。お話を伺ったパイロットさんと整備士さんは、飛行訓練の時にお会いしたお二人だ。ただ、パイロットさんのお話は、事情により文章での回答となってしまった。
パイロットさんの話
ヘリコプターパイロットとして質問に答えてくれたのは、小森俊軌さん(31歳)2等陸尉だ。
1日の仕事の流れは?
・出勤
・当日の気象確認
・朝礼
・命令受領と飛行ブリーフィング
・飛行訓練
1日1〜2時間程度、関東甲信越地方を中心に飛ぶ。
・訓練成果をふまえた次回訓練計画の作成、その他の事務作業など
・翌日の気象確認など
操縦で難しいと感じることは?
「ヘリコプターは、自然の中を飛ぶという特性上、風はもちろん、雲や雨の影響を大きく受けます。そのため、自然現象に抗うのではなく、自然をよく分析をして味方につけて操縦することが難しいと感じます。」
飛ぶ訓練以外の仕事は?
「普段は、幹部自衛官として各種計画の立案や作成、共同訓練のために各所との調整をするなど、部隊の運用に関わる仕事をしています。ヘリコプターのパイロットは、特技のひとつだと位置付けています。また、日替わりの仕事として、航空機の飛行に関する事務手続きや、事態に即応できるように職場に宿泊することもあります。」
陸上自衛隊のパイロットになるには?
「二つ方法があって、一つ目は、幹部になることを目標として入隊し、適正と希望によりパイロットとなる資格を獲得する方法。二つ目は、入隊後に選抜試験に合格してパイロットになる資格を獲得する方法です。権利を獲得した後は、陸上自衛隊の航空学校(パイロット養成学校)へ入校し、約2年間の教育訓練や各種の試験を経て卒業し、パイロットになります。女性でも大丈夫です。視力に関しては、裸眼視力が0.1、矯正視力が1.0以上あることが最低条件です。他にも10項目ほどの検査がありますが、メガネだからといってパイロットになれないわけではありません。」
パイロットになってからは?
「まずは、副操縦士として勤務し、その後、審査を経て機長になります。機長になってからも各種の審査があり、編隊長や試験飛行操縦士、計器検査官などといった資格を得られます。」
CH-47の好きなところと改善してほしいところは?
「好きなところは、圧倒的な大きさとパワーです。改善してほしいところは、冷房機能です。夏場は暑いので。」
なぜ、自衛隊のヘリコプターパイロットに?
「もともと乗り物が好きで、自衛隊に入隊後、ヘリコプターに搭乗する機会があり、その時にパイロットになろうと思いました。子どもの頃は、好奇心が旺盛な子どもでした。」
今までで、一番ドキドキしたこととは?
「初めて自分でヘリコプターを離陸させた瞬間です。」
どんなパイロットを目指す?
「飛ぶことを目的とせず、手段として捉え、その先を見据えるパイロットになりたいと思っています。」
整備士さんの話
整備士として質問に答えてくれたのは、阿部美美(みよし)さん(34歳) 3等陸曹だ。
1日の仕事の流れは?
・出勤
育児中であり妊娠中でもあるので、ちょっとゆっくりめの出勤になっているそうだ。
・朝礼
・ブリーフィング
・飛行前点検
・飛行訓練機に同乗
インタビュー時点では、妊娠中のため同乗はしていないが、写真には出てくるよ。
・お昼休憩
・午後の仕事
同乗訓練があれば同乗、なければ飛行後点検や事務作業など。
飛行訓練では、ヘリコプターに同乗していましたが、いつもですか?
「訓練の内容によって、1〜3人の整備士が、機上整備員として同乗します。車両を積み込む時は誘導をしますし、山火事を消す時には、水を汲んだバスケットから放水するスイッチを押すこともあります。」
点検内容は?
「オイルの量や漏れなどの異常が無いかどうか、燃料に不純物が入っていないかどうかなどを、飛ぶ前と後に点検します。また、機体の飛行時間が50時間ごとと300時間ごとに定期的な点検を行います。600時間になると脚部の点検も行います。私たちが行っている整備は、現場での点検整備ですので、専門性が要求される整備や不具合には、別の部署の人が対応しています。」
CH-47の整備で難しい整備とは?
「たまにしかやらない整備です。部隊の中で誰も経験したことのない整備は、難しく感じます。また、電気的なものは、不具合が時々しか出ないこともあるので、そういったものは対応が難しいです。でも、そういう不具合を解決できると達成感はあります。」
なぜ、自衛隊の整備士になろうと思った?
「人の役に立つ仕事をしたいと思っていて、出身地の岩手県で地震があった時に自衛隊が活動する姿をテレビで見たり、実際に移動しているところを見たりしたので、『こんな仕事もあるんだ』って思って自衛隊を選びました。はじめは、パイロットがいいかなと思っていたのですが、実際に働いている現場を見学した時に、ヘリコプターの整備士の動きがかっこよかったので整備士を希望しました。」
仕事で大事だと思うことは?
「コミュニケーションです。一人では出来ませんから。パイロットとも普段からコミュニケーションをとっています。この部隊は、パイロットと整備士が同じ建物にいますので、雑談をする時もあれば、パイロットから整備に関する細かな疑問が出てくることもあります。」
印象に残っている仕事とは?
「機上整備員の資格を取ってすぐに行った、熊本県での震災対応です。物資をヘリコプターに積む際に、重量のバランスを計算しなければいけないのですが、資格を取ったばかりでしたので、大変でした。先輩に教えてもらいながら、無事に終えることができましたが、とても印象に残っています。」
どんな整備士を目指す?
「後輩から頼られる人になりたいですね。それに、検査陸曹という、点検が終わった後に点検内容を検査する資格があるのですが、それにも、いつか挑戦してみたいと思っています。」
読者に向けて一言あれば
「興味のあることがあれば、やってみたほうがいいと思います。ヘリコプターの整備に興味があれば、自衛隊の地方協力本部(注:隊員募集の窓口となる組織)などが、見学会を開催することもあるので、そういった機会に参加してもらって、実際の現場を見てみるのがいいと思います。」
インタビューに答えてくれた阿部さん。今は、二人目のお子さんを妊娠中。自衛隊は、育児に関しても色々な制度があって、前回、育休の後の職場復帰もスムーズだったそうだ。
おわりに
我が家から一番近い自衛隊は、こんな風だったのか!今までは、遠くを飛んでいるヘリコプターしか見たことがなかったので、ようやくスッキリした。この駐屯地の前を通っても、外からじゃ何をやっているのか、全くわからないんだよね。考えてみれば、陸上自衛隊の基地に入れてもらったのは、初めてだったかもしれない。自衛隊に知り合いがいない人って、大体、僕みたいな感じじゃないかな。少しでも自衛隊の雰囲気が伝わればいいと思う。
写真と文 西澤丞 インタビューは、2024年4月に行いました。