核融合炉を作る人。次世代エネルギーの研究所で話を聞いてきた。

2008年まで実験に使われていた核融合の実験装置「JT-60」。2009年7月撮影。

量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所 茨城県那珂市

はじめに

グレタ・トゥーンベリさんが国連で演説をした2019年あたりから、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉に代表される持続可能な社会を作るための動きが、にわかに加速し始めたように思える。温暖化の原因が二酸化炭素かどうかの確証は得られていないようだが、毎年のように異常気象が発生している現状では、二酸化炭素が原因となっている可能性があるのであれば、手遅れになる前に対処する必要があるのは間違いない。日本政府も二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにすることを発表したし、自動車メーカーも電気自動車への切り替えを競い合うかのように発表している。しかし、ちょっと待て。二酸化炭素を減らそうと思って火力発電所を止めちゃったら、電気はどうやって作るの?車を電気自動車にしたら、今よりもたくさん電気を使うことになるんだよ。

JT-60のプラズマ加熱装置の一部。2009年4月撮影。

ちなみに日本の電源構成は、以下のようになっている。(経済産業省 資源エネルギー庁のウェブサイトより、2017年時点の電源構成)

LNG 40%
石炭 32%
石油など 9%
新エネルギー(風力、太陽光、地熱など) 8%
水力 8%
原子力 3%

二酸化炭素を出す発電方法で作られた電気の割合が81%、再生可能エネルギーが16%、原子力が3%ということだ。先にも書いたが、車が全部電気自動車になれば、電気の使用量は、今よりも増える。二酸化炭素を出す火力発電は、減らさなくちゃいけない。さあ、どうする。

解体作業中のJT-60。真空容器の断面は、丸になっている。2012年1月撮影。

次世代エネルギーの選択肢のひとつ、核融合

電気の現状を知っていただいたところで、核融合の話に移ろう。核融合は、将来的な電源のひとつとして期待されているからだ。

東日本大震災を機に、次世代のエネルギーが話題なる機会が増えたこともあって、核融合に関する認知度も以前より高くなったと思うが、まだまだご存知ない方もいらっしゃるだろう。なので、話は「そもそも核融合とは?」ってところからスタートする。私が核融合の研究施設の撮影を始めた2009年ごろは、核融合の研究所を撮影してるなんて言おうものなら、「そんな危ないところに行って、大丈夫?」なんて本気で心配されることもあったからね。

今回の記事で掲載する写真については、以前の実験装置「JT-60」を解体するシーンや新しい実験装置「JT-60SA」を建設している様子など、2009年からこの研究所で撮影させてもらっている写真があるので、それらの写真を文章と並行してご覧いただきたいと思っている。

解体作業中のJT-60。ドーナツ状の真空容器の2/3くらいが切断された状態。2012年7月撮影。
松永剛さん。背景に写っているのは、JT-60SAを制御するためのモニター。

さて、前置きが長くなってしまったが、ここからのお話は、那珂核融合研究所の新しい実験装置「JT-60SA」に設計の段階から携わっている松永剛さん(47歳)にうかがった。難しい話は、私自身も理解できないので、物理や科学に詳しくない人向けに、やさしく教えてもらった。

そもそも核融合って?

「わかりやすいのは、太陽ですね。太陽が光って熱を送っているっていうのは、あそこで核融合反応が起ってるからなんです。水素と水素をぶつけて、それを融合させてヘリウムになる時にエネルギーが出るっていう反応です。」

具体例として太陽での反応について説明をしてくださったが、核融合とは、水素に限らず、原子と原子がぶつかった時に、より重い原子になる反応だ。また、核融合が起きる時には、原子の重さが、1+1=2のようにはならず、少し軽くなる。その軽くなった分が、熱や光などの大きなエネルギーとなって放出されるってことだ。

JT-60SAのポロイダルコイル(水平方向のコイル)の搬入。茶色のものは、コイル搬送用の架台だ。2014年1月撮影。

核融合の研究目的とは?

「核融合反応を人類の手で制御してエネルギーを取り出す。発電所を作ってエネルギーをみなさんにお配りする。そのための研究を行なっています。」

核融合の研究とは、核融合だけを研究しているのではなく、核融合のエネルギーで発電することを目的としているのだ。核融合を使った発電では、燃料を全て海水から取り出すことができ、二酸化炭素も排出しないため、エネルギーに関する問題の多くが解決できるのだ。以下に核融合発電のメリットとデメリットを書き出しておこう。

核融合発電のメリット

燃料が無尽蔵

燃料に使うのは、重水素と三重水素。重水素は、海水から取り出すため、海に囲まれた日本の場合、ほぼ無尽蔵。三重水素は、海水からリチウムを取り出し、それを利用して炉内で生成するため、こちらもほぼ無尽蔵となる。

エネルギーが大きい

1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを取り出せる。

二酸化炭素を排出しない

発電に用いられる核融合反応では、重水素と三重水素からヘリウムと中性子が出てくるが、二酸化炭素は発生しない。

暴走の心配がない

核融合反応では、反応を維持するのが難しく、装置などに異常があれば、反応が止まってしまうため、暴走する心配はない。

核融合発電のデメリット

技術が確立していない

核融合から発電する方法は、技術的な課題が多く、まだ実現には至っていない。核融合を起こすためには、重水素と三重水素を、気体よりも活発な状態であるプラズマにして高温高圧を維持しなければいけないのだが、その状態を維持するのが、とても難しい。また、発電するためには、反応の結果として出てくる中性子を受け止めて熱に変えなければいけないのだが、中性子を受け止める素材の開発もこれからだ。核融合での発電を実現させるためには、物理はもちろんのこと、材料に関することや装置の製造に関することなど、様々な知識が必要であり、ここ那珂核融合研究所でも多くの人が研究に携わっている。

放射性物質と無縁ではない

燃料に使う重水素は放射性物質ではないが、三重水素は放射性物質だ。ただ、三重水素の半減期は約12年と短いため、管理が可能だ。また、核融合反応で出てくる中性子は、炉の構造材などを放射化させてしまうので、発電所を解体する際には、低レベル放射性廃棄物が発生する。しかし、それらの廃棄物の放射能は、数十年で問題のないレベルまで減衰するため、人が管理できる範囲内だと思われる。

JT-60SAの真空容器には高精度が求められたので、現場には張り詰めた空気が漂っていた。2011年11月撮影。

実験装置JT-60SAの特徴とは?

さて、那珂核融合研究所では、新しい実験装置JT-60SAが2020年3月に完成し、その後、本格的な稼働(最初のプラズマ点火)に向けた試験準備と試験運転を実施している。これを書いている時点では、プラズマ実験に向けて、最終的な試験をしている最中だ。この記事では、以前の装置JT-60の写真も掲載しているが、新しい装置であるJT-60SAは、どの辺りがアップグレードされているのだろう?

「昔は、銅のコイルだったものを超伝導のコイルに置き換えました。超伝導のコイルは、ニオブチタンとニオブスズという材質で出来ています。また、超伝導は、4ケルビン(マイナス269度)まで冷やさなければいけないんで、真空容器を二重にしています。プラズマを閉じ込めるところは、高温になるので、まずそこが真空です。そして、コイルを収めた部分は冷やさなければいけないので、そこも真空になっています。外側の容器の内側には、人工衛星に貼ってあるような多層断熱材という金色の素材が貼ってあります。」

Dの字断面になっている真空容器の内側には、形状保持のための部品が付いている。2014年8月撮影。
JT-60SAの真空容器の組み付け。真空容器は、10個に分けた部品を溶接でつないでゆく。2015年1月撮影。

超伝導とは、電気を通す材質を極低温にすると電気抵抗がゼロになる現象だ。大きな電流を使う場合、銅のコイルでは、コイル自体が加熱してしまって短時間の運転しかできないが、超伝導にすることで長時間の運転が出来るようになる。ちなみにトースターなどは、電気抵抗の大きな材質を使うことで熱を発生させている。

「あとは、真空容器の形も変えています。昔は丸い断面形状でやっていたんですが、これまでの研究成果によってプラズマの断面を縦長のDの字型にすると閉じ込め性能が上がるっていうことがわかっているんで、それに合わせて真空容器の形をDの字型に変えています。」

JT-60SAの真空容器とトロイダルコイル。大きさを想像していただけるだろうか。2017年7月撮影。
JT-60SAのトロイダルコイル(外側のDの字)。最後の1個なので、真空容器の最後の部品(内側のDの字)とセットになっている。2018年4月撮影。

実験装置の建設ってどうやって進めるの?

複雑かつ高精度が求められる装置の建設は、どんな段取りで進められたのだろうか?松永さんは、JT-60の実験にも関わっているし、2009年からのJT-60SAの建設にも初めから関わっているので、建設の様子についても聞いてみた。

「JT-60SAの建設は、ヨーロッパと共同で行っているので、概念設計から始まって、具体的な仕様をどうするのか、一緒に考えながら詰めていきました。最初に決めるのは、プラズマの性能です。『どんなプラズマにしますか?』と。今回、プラズマを加熱するための装置はJT-60と同じものを使うので、そこに収まる範囲内で性能が出るものを選んで作ってます。プラズマが決まれば、そのプラズマを収めるためには、どんなコイルがいいですかっていうのを、それぞれが考えて、ものすごい数のアイディアを積み重ねて来たんです。」

JT-60SAは、JT-60と同じ建物内で周辺機器なども流用しながら建設されたため、制約も多かったようだ。

JT-60SAの真空容器内部。2016年5月撮影。

「最近は、3DCADがものすごく威力を発揮していまして、組み立ても再現できるんですね。設計はヨーロッパと共同なんですが、建設管理は、日本がやっていたんで、ヨーロッパが作ったCADのデータをもらって、部品同士がぶつからないかとか、手が入るかどうかとかを確認しながら進めました。組み立てるのは、日本が担当したんで、メーカーさんとも相談して、組み立ての順番や方法を決めてゆきました。これを先にくっつけちゃうと次の部品が入んないってこともあるんで、そういうのを最初の頃は何年間か掛けてやってました。」

確かに、ネジ留めしたいのに工具が入らないんじゃ大変だ。なお、設計が完全に終わってから部品を作り始めるのではなく、ある程度確定した部分から部品を作り始め、設計と製造は並行して行われた。また、松永さんが関わった設計で特に難しかったのは、熱による膨張を考慮することだ。高温になる部品もあれば、低温になる部品もあるので、大きさが変化することによって力のかかる部分が出てくる。それをうまく逃がしてやることが難しかった。ただ、従来であれば、実際にサンプルを作って試験しながら進めなければいけなかったが、シミュレーターで確認出来たので、完成までの時間を短縮出来たそうだ。

JT-60SAの組み立てには、円形状のクレーン(オレンジ色)も使われた。2017年7月撮影。

お話をうかがうまでは、研究者は仕様書を作るまでが仕事で、設計はメーカーさんがやると思っていたので、博士たちが自ら設計をしていたことが意外だった。

「一緒に考えるんですね。『メーカーさん、何とかしてください。』じゃなくて、アイディアを出し合って進めました。工程の管理に関しても、メーカーさんと会議を開いて、スケジュールが遅れそうであれば、同時にできる作業を探したり、情報を共有しながら、お互いにかなり意見を出し合いましたね。『そんなの出来ない。』って言われる時もあるんですけど(笑)」

さて、2021年4月から本格的に稼働を始める実験装置JT-60SAでは、どんな研究ができるのだろうか?

「実験装置には住み分けがあって、ITER(国際熱核融合実験炉)が、核融合反応を持続させ、熱の取り出しが実際に出来るってことを証明するための実験装置なのに対して、JT-60SAは、プラズマの性能を上げるための研究をします。将来の発電を見据えた場合、効率が良くないといけないんですね。装置が大きすぎたり高価になってもいけないので、経済的に見合うようにする必要があるんです。プラズマの圧力を上げることができれば、炉を大きくしなくても出力を上げることが出来ますから、そのための研究をします。」 

ITER用ロボットアーム。那珂核融合研究所では、ITER用機器の開発も行われている。2009年7月撮影。

ITER(国際熱核融合実験炉)とは、日本、欧州、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドが協力して、フランスに建設している実験装置のことだ。日本も建設誘致に参加していたが、フランスに作ることになったので、日本では、ITERに出来ない実験をJT-60SAを使って行い、日欧で相互に協力しながら核融合の研究を進める体制をとることにした。参加している国の名前を見ると、絶対仲良くできないだろうと思われる国が並んでいて不思議に思えるのだが、物理での発見には特許が適用されないため、このような協力が可能となっている。なお、部品の製造においては、各国、各メーカーの特許やノウハウがあるので、それぞれ独自の研究も進めている。また、2025年にITERが完成するまでは、JT-60SAが世界最大、最高性能のプラズマを発生させる実験装置になる予定だ。

なぜ核融合の研究を?

研究所の博士なんていうと、普段の生活では全く接点の無い人なので、どんな経緯で今の仕事をするようになったのか、松永さんの個人的な話を聞いてみた。

「子供の頃から機械が好きで、アマチュア無線とかパソコンとかに興味があったんです。それから雑誌に、核融合の装置の写真がいっぱい載っているのがあって、それにJT-60が載っていたんですね。そういうのを見て、小学校くらいの時にすごいなあと思って、漠然と研究者になりたいなって。」

核融合では、様々な知識や技術が必要になるので、特定の分野の知識が必要ということではない。松永さんは、高校で情報処理を学んだ後、大学で流体力学を勉強していた時に、プラズマが流体力学を含めた色々な研究要素を含んでいて面白そうだと考え、大学院で核融合の研究に関わることになった。そして、好きなことをやってきたのが、今、活きているという。

仕事のやりがいは?

「不具合が治ったと思ったら別の問題が出てみたいなのは大変なんですけど、そういうのが解決した時には、たまんない喜びがあるんです。前向きさがないとやってられないです(笑)何とかしてやろうって。」

簡単にできちゃったら面白くないのは、どの仕事でも同じのようだ。

JT-60SAの真空容器が完全につながる前の様子。2018年4月撮影。

これから必要とされるのは、どんな人なんだろうか?

「技術っていうより、気持ちの問題かなと。技術って、基本的なことは必要ですけど、私もここに入ってから勉強したこともいっぱいあるんで、それよりも将来、エネルギーがどうなるかって考えて、今すぐには実現できないけど将来のために地道にやっていける人。それから、アイディアを出してブレークスルーを起こせるような人。言い換えれば、使命感を持ちながら、クリエイティブを発揮できるような人でしょうか。想像力は、大事です。問題を解決するためには必須です。

目先の数十年くらいは、石炭なんかがあるんですけど、すぐにエネルギーの取り合いになります。その時に核融合で安定した無尽蔵のエネルギーを供給できれば、悩みごとがひとつ減ります。温暖化も同じですね。そう考えると、出来るだけ早く実現させなくちゃいけない。そのためには、今までやってきたことを引き継いでもらいつつ、クリエイティブに新しいことを試してもらいたい。まずは、こういうプロジェクトがあることを知ってもらって、志のある方には、是非、来ていただきたいですね。」

そういえば、那珂核融合研究所のホールにITER機構職員募集のポスターが貼ってあった。「年齢制限なし、南フランス勤務、英語力必須」いかがだろうか?

完成したJT-60SAの全景。2021年4月の稼働を控え、試験中。2021年2月撮影。

最後に

核融合については、100%実現出来る保証はどこにもないため、懐疑的な意見もある。しかし、エネルギーの確保や地球温暖化の問題が差し迫った危機になっている現状では、100%確実ではないからと言って、解決するための選択肢を放棄するなんてありえない。前例がないことをやれば、失敗するリスクがあるのは当然だ。しかし、そのリスクを認識した上でも挑戦しなければ、未来はない。もし、選択肢から外すのであれば、確実な代替案が出て来てからでも遅くはないはずだ。

JT-60SAの真空容器下部。2018年12月撮影。

ところで、インタビューの中で松永さんは、海外の研究者たちとやりとりをする時に、英語で苦労したという話をされていた。私もここ数年、英語の必要性を感じて少しずつ勉強しているのだが、その過程でわかったことがひとつある。日本では、リスクという言葉に対して負のイメージを持っているが、英語を話す人たちにとって、リスクは必ずしもマイナスではなく、リスクをとる人(Risk Taker)は、挑戦者として前向きなイメージで認識されるということだ。英語を勉強することの必要性は、単にコミュニケーションをとる目的以外に、考え方の多様性に触れることだと思う。思考の順序やリスクに対する考え方は、この国の未来を左右するだけに重要だ。個人的には、「Game Changer」っていうのに憧れますけど。

写真と文 西澤丞 インタビューは、2021年2月に行いました。