手作り農具って? 職人さんに話を聞いてきた。

工場の隅で塗装を待つ商品群

山崎製作所 群馬県安中市

はじめに

取材先を探そうと思ってネットで検索していたところ、「手作り農具」なる文字を発見。今の時代に手作り農具? これは、もう、字面から興味津々。早速、現地に行ってみた。

グーグルマップで見るとJR安中駅から20分ほどなので、それほど遠いわけじゃない。しかし、現地に近づくにしたがって、道はどんどん細くなり、カーナビの指示も怪しくなってくる。最終的には、「こんなところを曲がっていいのか?」と思えるような角を曲がった先に、山崎製作所はあった。

部品の形状を確認している様子

なぜ手作り農具を仕事に?

迎えてくれたのは、山崎製作所の5代目、上原孝一さん(40)。山崎製作所の操業は、明治40年。初代から3代目までは親子関係で継がれてきたが、4代目からは親子関係はなく、5代目である上原さんは、4代目の時代に従業員として入って、後を継いだ。その経緯を聞くと、農具作りを仕事に選んだ理由が気になってくる。親の仕事を継ぐのと自分で仕事を探して選ぶのとでは、意識が全く違うと思うからだ。

「自分は、流れ作業をしたり、設備を作るっていうタイプじゃない。会社人間っていうより、ひとつのものを自分の手でっていうタイプなんで、完成までの全部をやりたいんです。」

上原さんは、高校を卒業してからプラスチック加工会社や造園会社、車の部品を作る会社を経験する中で、流れ作業や上司の顔色をうかがう人間関係が自分に向いていないことに気がついた。その後、自分に向いた仕事は何だろうと思っていた時に、山崎製作所の求人を見て、面白そうだと感じたという。その時は、「農具を作りたい」と明確な意思があったわけではなかったが、実際に働いてみると、ものづくりが好きな上原さんにぴったりの仕事だった。21、22歳頃の話だ。

鍬(くわ)の先端部分に別の材料を溶接している様子

仕事は、どんなふうに覚えたのだろう?

昔から続いている仕事であり、職人の世界でもあるので、どんなふうに仕事を覚えたのか気になった。

「教えてくれた後は、とにかく自分でやってみろって感じでした。」

実際に手を動かす仕事であれば、何の仕事でも、手の感覚までは教えられないから、自分でやってみるのが、上達へのいちばんの近道だ。職人の世界では、「見て盗め」という人も多く、始めのうちは材料に触らせてもらえないこともあるので、4代目は、いい人なんだと思う。

上原さんは、前職で溶接の仕事をしていたので、まずは、溶接の仕事からはじめ、その後、少しずつ出来る仕事を増やしていった。難易度の高い鍛造工程までやらせてもらえるのに5年くらい。一通り覚えるのには、10年くらいかかったという。

道具類は、市販のものを改造して使っている

手作り農具と量産品との違いとは?

私は、農業に携わったことがないので、農具といえばホームセンターなどに置いてあるようなものしか見たことがなかった。だから、「手作り農具」の文字を見た時に、量産品と一体何が違うんだろうという疑問が頭に浮かんだ。

「まずは、強度ですね。後は、形や材質、重さです。」

強度に関しては、先端部分の材質を変えるなどの工夫をしているし、溶接は絶対に外れないような溶接を心がけている。形に関しては、昔は村ごとに鍛冶屋さんがいたので、村単位で農具の形が違っていた。今でも市の単位では形が違うので、使う人が求める形は量産品とは異なっているのだ。実際、工場内の棚には、鍬(くわ)だけでも10種類くらいの商品が並んでいた。重さに関しては、素人は何となく軽いものを選んでしまいそうになるが、軽いものでは振り下ろした時に土に入ってゆかず、かえって力が必要になる。ある程度の重さがあれば、振り降ろすだけで土に入ってゆくので楽なのだ。量産品は、素人向けなので、軽くできているものが多いし、強度などに関しても値段相応といったところだ。

鍬(くわ)だけでも10種類ほどの在庫がある
在庫の商品は、場所を取らないように半完成の状態で置かれている

なお、山崎製作所の商品は、定番商品として30種類くらい用意してあって、それらは金物屋さんやインターネット経由で販売されている他、ここで直接購入することも出来る。また、修理にも対応していて、すり減った刃先の取り替えなども行なっている。刃先を新たに溶接する作業だと、新品の値段と変わらないこともあるが、道具に愛着を持っている人は修理を選択するという。それから特注品の製作にも対応していて、一品モノでも1万円から作ってくれるとのこと。この場合、参考となるものを見本とする場合もあれば、絵や図面などがあれば、そこからも製作可能だ。製作している様子を見ていると、特注品の制作費が1万円からという金額は安いように感じてしまうのだが、いつもと違う物に対しては「作ってみたい」という気持ちが働くし、作ってくれるところがないなんて聞くと、「自分なら作れるのに」と思ってしまうので、値段はなるべく低く抑えているという。

溶接が終わった製品の刃先を、サンダーで削っている

製作の工程について

今回、撮影させてもらった時は、三本備中鍬の製作中だったので、それを中心に製作の工程を教えていただいた。

材料

材料として仕入れているのは、鉄、鋼鉄、ステンレス、それに板の表と裏で材質が違う複合材がある。複合材は、鉄と鋼鉄が合わさった物だ。

鍛造

材料の強度を上げるために行う作業。材料をガスバーナーで加熱してから機械式のハンマーで叩く。両手で材料を保持しながら叩く位置を決め、同時に右足でハンマーの強さを調節しなければいけないので、全ての工程の中で一番難易度の高い作業だ。上原さんも始めの頃は、材料が赤くなっているうちに全ての作業を行うことが出来ず、2回3回と温め直さなければいけなかったそうだ。

材料を少しずつ動かしながら叩いてゆく
細かな部分は、手で叩いて整える

削り

グラインダーとサンダーを使って形を整える。グラインダーでざっくりと形を整えてから、サンダーで仕上げる。削る作業は、様々な工程で適宜行われる。

グラインダーで材料の形を整える
サンダーで部品を削っている様子

曲げ

機械を使って曲げた後、手作業で微調整する。

機械を使って材料を曲げる
機械で曲げた後、再度、加熱して歪みをとる

切断

切断に使う機械は何種類かあり、用途や作業効率などを考慮しながら、最適な機械で切断する。

同じものをたくさん切断する時は、まず、一箇所の角度を決める
後は、それに合わせて治具を調整し、同じ角度で切断してゆく。これは、鍬の部品を作っているところ

溶接

手作りの治具を使って部品を所定の位置に配置し、仮止め。その後、本格的に溶接をする。通常の溶接では、部品同士をつき合わせ、そのつき合わせた部分を溶接するのだが、上原さんは、部品同士に2ミリ程度の隙間を作っておいてから溶接をする。部品同士をつき合わせた状態で溶接すると、中まできちんと溶接することが出来ず、何かの拍子に溶接部分が取れてしまうことがあるからだ。

「農具が曲がっても溶接は取れないようにしています。」

部品同士の隙間を空けると、溶接の難易度は格段に上がってしまうのだが、強度を最優先にしているのだという。

仮止めをしてから本格的な溶接を始める
部品の位置を合わせる治具も手作りだ

焼き入れ

材料を熱した後、油に浸けて冷却し、材料の硬さを調整する。水に漬けると冷却が急激すぎて材料が割れてしまうので、油を使っている。油は、焼き入れ用の油として販売されているものを使っている。

油に投入した瞬間
投入した後、一瞬、炎が出た

塗装

ホームセンターなどで売っている農具は、黒く塗装されているものが多いが、上原さんは素材の風合いを伝えるため、透明な塗料で仕上げている。だから溶接の具合も各部の材質の違いもよくわかる。

右側の棒状のものは、材料を鍛造しただけの状態。中央は、曲げ加工まで済んでいる状態。左のものが完成した状態(塗装前)。完成品は、刃先の形が違っている

やりがいは?

「何をやってても楽しいんですが、お客さんから『こういうの作ってほしい。』って言われたものが完成した時はうれしい。でも、一番うれしいのは、お客さんから『使い勝手がいい。』とかって感想をもらった時。」

「売れることよりも品質」と考え、お客さんにとって使い勝手の良い農具を常に模索している上原さん。量産品では満足できない人にとって、修理や特注品の製作まで対応してくれる山崎製作所は、心強い存在なのだ。

山崎製作所の上原さん
上原さんは、群馬県ふるさと伝統工芸士に認定されている
刃先の仕上げとして、砥石で研いでいる様子。ひとつひとつ、物を確認しながらの作業だ

おわりに

決して饒舌とは言えない上原さんだが、気なったことを質問すると、そこにはいつも明確な答えが用意されていた。スムーズに行われてゆく作業の中には、私が気づかなかったこともあるだろうし、上原さん自身が当然だと思っていることの中にも普通じゃないこともあるだろう。作っている物の種類が多いだけに、工夫やこだわりは数知れず、興味は尽きない。

写真と文 西澤丞 インタビューは2021年3月に行いました。