F2戦闘機のパイロットと整備士を、航空自衛隊百里基地で取材した!後編。
取材先:航空自衛隊 百里基地(茨城県小美玉市)
取材した人:写真家 西澤丞
はじめに
この記事では、航空自衛隊百里基地に所属しているF2戦闘機のパイロットさんにインタビューをした。整備士さんへのインタビュー記事(前編)は、こちら。
F2戦闘機パイロットの仕事とは?
パイロットの仕事について教えてくれたのは、小野彰一郎さん(31歳)だ。まずは、標準的な1日の流れを、教えてもらった。写真には、他のパイロットさん達もたくさん出てくるよ。
1日の仕事の流れ
- モーニングレポート(30分くらい)
天気や機体の整備状況、他の飛行場の状況を確認する。他の飛行場の状況を確認するのは、緊急時に着陸することもあるからだ。また、エンジンが止まった時などに備える緊急手順についても、毎回、みんなで確認する。この手順は、数十項目もあるそうだ。 - プリブリーフィング(40分から50分くらい)
訓練の内容を確認する。映画なんかでよく見るやつだね。ブリーフィングの前には、説明のためのスライドを作ったりしなければいけないので、準備が大変だ。特に対艦や対地の訓練は、役割分担や攻撃パターンを考えなければいけないので空対空の訓練より大変だ。
- 装備をつける(10分くらい)
取材したのは2月なので、耐水服(いわゆるドライスーツ)を着た上に耐Gスーツを着ていた。海水温が低い時期は、不時着した時に備えて耐水服を着なければいけないのだ。ただ、これを着ると動きにくいし、暑くて汗が溜まるので、快適なものではないそうだ。
- 出発の準備(30分くらい)
出発の35分くらい前に飛行機へと向かう。整備士さんたちに挨拶をしてから機体の外観の点検をし、機に乗り込む。その後、エンジンをスタートさせてから離陸までに行なう点検手順が、100項目くらいある。
- 飛行訓練(1時間から1時間半くらい)
飛行訓練は、基本的に1日1回、多くて2回。これを2機編隊や4機編隊で行う。内容としては、対艦、対地、空対空の訓練が、それぞれ同じくらいの割合だ。 - デブリーフィング(30分から1時間くらい)
着陸してから1時間後くらいに始める訓練の反省会だ。どういう認識で戦っていたかなどの検証をする。 - 事務作業
訓練自体は、ブリーフィングを含めて5時間くらいだが、事務作業もやらなければいけない。報告書の作成から訓練の計画、戦い方の計画など、書類に関わる事務作業もたくさんあるし、飛行機の取り扱い説明書は、内容が変更されてゆくので、常に最新のものにしておく必要があるのだ。
なお、週休2日が基本だけど、スクランブルもあるし、勉強もしなければいけないので、とても忙しいそうだ
飛行訓練の具体的な内容は?
「飛行隊に配置されたばかりの時は、対領空侵犯措置、いわゆるスクランブルですけど、まずは、それが出来るようになるための訓練をします。F2に乗る資格にも色々な段階があって、私は現在4機編隊の編隊長になるための訓練をしています。また、飛ぶ前には、攻撃の方法や経路について考えておかなければいけませんし、4機で飛ぶけど3機になったらどうしようかとか、バックアッププランも作っておかなければいけません。それを毎日、作ってから飛びます。」
「戦う訓練として、F2のメインの仕事は、対艦攻撃ですので、そのための訓練をします。それ以外には対地攻撃ですね。これは、地上の目標に爆弾を落とします。あとは、空対空戦闘。空対空戦闘は、大体やり方が決まっているんですが、対艦や対地の訓練は、準備が大変です。4機で飛ぶ時の役割分担とか、相手から攻撃を受けた場合の備えもしなければいけません。攻撃している間に、守ってくれる機との連携、雲の位置や風の把握、燃料など。考えなければいけない要素がたくさんあるんです。」
「飛行速度に関しては、通常はマッハ0.9くらいまでです。必要があれば、スピードを出しますが、出せばいい時と出さない方がいい時があります。出すことによって飛べる時間が減ったり、進出できる距離が変わってきますから。燃料の消費は、飛行高度によっても違ってきますので、それらを、計画の段階で考えておく必要があります。」
「訓練には、海外での訓練もあって、私もオーストラリアの訓練に参加したことがあります。オーストラリアでは、訓練できる空域が、ここで使う空域の5、6倍の広さがありますし、色々な国と一緒に訓練を行います。国によって、言葉も違いますし、戦う基準が違いますので、良い経験になります。『そういう考え方があるんだ』って思うこともあれば、『これは、うちのやり方のほうがいいんじゃなか』って思うこともあります。」
スクランブルとは?
「緊急発進のことで、我々は24時間態勢で勤務についています。対領空侵犯措置で発進する場合もありますし、地震が発生して情報収集のために飛ぶこともあります。私も、夜中に地震で上がったことがあります。」
難しいこととは?
「判断することが難しいですね。安全を確保した上で、タイムリーに効果的なことをやらないといけないので、慣れないと難しいですね。F2は、すごい速度で飛んでるわけですので。また、場合によっては、出来ないっていう判断もしなければいけません。燃料が足りませんとか、ミサイルが足りませんってこともあるので…。出来ないっていう判断をするためには、根拠が必要なので、それが何なのかってことを瞬時に判断しなければいけません。そういうのは、事前のシミュレーションが重要です。」
自衛隊のパイロットになる方法について
小野さんが教えてくれた自衛隊のパイロットになる方法は、三つだ。航空学生からなる方法。防衛大学校から航空自衛隊に入ってパイロットになる方法。一般大学を出たあと、パイロットになる方法。いずれも、プロペラ機に乗って、適性検査を受けてから採用されるとのこと。性別は関係ないし、最近では視力の要求事項も緩和されて、メガネが必要な人でも大丈夫だ。
採用後の段階としては、プロペラ機のT7から始まって、T4での訓練を経て、F15かF2に乗ることになる。F15かF2かは、希望を出せるものの、通るとは限らない。
細かなことも色々聞いてみた。
・ F2戦闘機のどこが好き?
「なんでも出来るところですね。あと、色もいいですね。でも、あの迷彩、ほんとに見えないです。身内が近くを飛んでいても見失うことがあるくらいです。日本の海にすごく溶け込んでいます。機体の下側は、下から見上げた時の空の色に合わせてあるんですが、これも見えません。」
・ F2戦闘機の嫌いなところは?
「2000年に飛び始めた飛行機で、もう23年も経っていますから、他の国の新しい飛行機に比べると、ちょっと古く感じます。昔と違い機動性はあまり重要ではなく、アビオニクスと言われるレーダーの性能だったり、データ通信が重要なんですが、やはりF-35といった最新鋭の戦闘機と比べると劣る部分はあります。」
・ なぜ自衛隊のパイロットに?
「まずは、かっこよかったっていうのが第一です。自衛隊を選んだのは、高校生の時に今の日常を守りたいなって思ったからです。具体的なきっかけは無いんですが、私は兵庫県出身で、阪神・淡路大震災なんかもあって、日々の生活って大事なんだなあって、思ったんだと思います。」
・ パイロットに向いている人とは?
「よく言われることですけど、素直な人ですかね。あとは、コミュニケーション能力。パイロットは、チームで働くので、大事です。」
・ 普段の生活で気をつけていることとは?
「なるべく質の良い睡眠をとることですかね。時間は短くてもいいので、なるべく質の良い睡眠をとるように心がけています。お酒は、飲まないですね。何か機会があれば飲むんですけど、もう半年くらい飲んでないですね。」
・ 飛行訓練中に吐いちゃったりしないの?
「訓練中は、最大で9G、普段でも5〜7Gくらいかかりますので、人によっては吐いちゃうこともありますけど、それもだんだん慣れてきます。また、食事をしないと血糖値が下がって、耐性が下がっちゃいますので、ちゃんと食べた方がいいです。あと、水分もちゃんと摂っとかないと。」
・ 実際に国籍不明機などに対峙したことはある?
「あります。防衛省が報道発表している写真は、私たちが撮っています。コンパクトなデジタルカメラを持っていますので、飛びながら撮ってます。写真を撮るのって難しくて、ヘルメットをかぶっているとファインダーが覗けませんし、キャノピーの写り込みやレンズフレアも入ってしまいます。ですから、撮影するための訓練もします。」
・ どんなパイロットを目指す?
「結果の出せるパイロットですね。示された目的と結果を、ちゃんと遂行できるパイロットです。」
・ パイロットを目指している人に一言あれば。
「パイロットは、目指す価値のある仕事だと思いますので、パイロットになりたいと思っている人は、ぜひ、目指してほしいですね。仕事自体は大変なんですけど、それを考えても、やる価値はあるかなと思っています。」
・ 休日の過ごし方は?
「朝から晩まで、妻と娘と一緒にいます。特に娘は、ママっ子になっちゃったら困りますから(笑)」
おわりに
「日常を守りたいと思ったんです。」
小野さんへのインタビューを終えた後、この言葉がとても印象に残った。実際に国籍不明機と対峙している時の緊張感は、僕なんかでは想像することもできないが、防衛の仕事を担ってくれているのは、小野さんのようなごく普通の人たちだ。彼らが、相手に発砲することなく、訓練だけで過ごす日が続くようにするには、どうすればいいんだろう?自分に出来ることは、何なんだろう?そんなことを考えさせられた取材となった。
インタビューは、2023年2月に行いました。写真と文 写真家西澤丞