「精鋭無比」 陸上自衛隊 第1空挺団

取材協力:陸上自衛隊 第1空挺団
取材者:西澤丞

はじめに

陸上自衛隊さんに取材をお願いする場合、どの職種を取材させてもらうべきか、結構悩む。自分自身が自衛隊さんの仕事内容を把握できていないこともあるけれど、各駐屯地に存在する職種だと、どこにお願いすべきか、きっかけがつかめないんだよね。そんなこともあって、今回は特徴が分かりやすくて、ここにしかない部隊、つまり第1空挺団にお願いすることにした。

第1空挺団とは?

第1空挺団は、日本で唯一の落下傘を使って降下できる部隊だ。人数は2000人ほどで、習志野駐屯地を拠点にしている。「精鋭無比」と謳っているように陸上自衛隊の精鋭部隊であり、取得するのが大変だと言われているレンジャー資格を持っている人の比率が高い部隊でもある。

なお、降下するのは普通科だけではなく、通信科、特科(火器担当)、施設科など、任務を遂行するために必要な様々な職種の人たちだ。

取材1日目

取材許可をいただいたのは、降下訓練と並行して実施されている、「降下長」という役職になるための教育の様子だ。降下長とは、降下の際の安全確認や段取りをする役職のこと。

訓練の様子

現場に着いて最初に目についたのは、着地の訓練。落下傘で降下している最中は背中から風を受けるように向きをコントロールし、着地の瞬間に受け身を取るのが基本だ。足裏、膝、太ももの順番に接地してショックを和らげるのだ。地上での訓練であっても、着地の瞬間をイメージして、右向き、左向きなど、どんな向きでも対応できるようにしなければいけない。これは、ベテランの人でも降下の前には、必ず行う訓練だ。

翌日の降下訓練では八つの小隊が降下するので、小隊ごとの訓練が、あちらこちらで行われていた。この場所で行われていたのは、降下員が用意した装備品の点検。上の写真では、「見習降下長」の腕章を付けた人が装備を点検していて、その様子を青い帽子の教官がチェックしている。なお、分かりやすく教官と書いたが、正確には、この教育における教官は、全体をまとめている1人だけで、見習降下長に指示している青い帽子の人は「助教」と呼ばれている。

見習降下長は、装備に不備があると赤色のテープを貼り、不備の理由を書き込む。取材していた中では、ストラップ類の端末の処理が不十分である場合が多かったようだ。ストラップがブラブラしている程度でも重大な事故につながる可能性があるので、本人と降下長との二重チェックになっている。

こちらで行われていたのは、装備品の装着。装備は重く複雑なので、1人では装着できない。

背負っているのは、主傘と呼ばれるメインのパラシュート。胸の部分にあるのが予備傘。足の前にぶら下げているのが、個人の装備を納めた「背のう」「のう」を漢字にすると「嚢」だ。ちょっと読めないよね。背のうの向こう側には、自動小銃を収めたケースがぶら下がっている。なお、パラシュートの重量は、種類によっても異なるが、30〜40kg。個人装備は25kgほど。合計で50kg以上になる。なお、写真に写っている個人装備は、一番軽い状態。今回の訓練が降下だけだからだ。訓練によっては、降下した後に徒歩で100kmも移動し、そこから戦闘訓練が始まる場合もある。そんな時は、水や食料、火器などが加わるので、さらに重くなる。

背のうの一部。手前の黄色のタグを引っ張ると、銀色のワイヤーが抜ける。すると、赤いリングの部分でロックされていた複数のストラップが一気に外れる。自衛隊の装備は、不用意には外れず、外したい時には迅速に外れるような工夫がしてある。

装備品を身につけたなら、次は廃用となった機体を使っての訓練だ。ヘリコプターから飛び降りる際には、足を置く位置などが厳密に決まっているので、何回も訓練を繰り返して体に覚え込ませる。

見習降下長による指導。自衛隊では、退職や異動などにより人が入れ替わるので、練度を維持するための教育が常に行われている。個人のレベルで考えれば、任務遂行のスキルを向上させつつ、教えるスキルも身につけなければならない。やらなければいけないことが沢山あるのだ。

先ほどの廃用機を使って、降下時の立ち位置を確認している様子。降下長、副降下長はどこに立てばいいのか。僕も翌日の撮影に備えて、邪魔にならない場所を確認させてもらった。飛ばないと分かっていても、実機と同じなのでテンションが上がる。

降下訓練をする前には、機体の養生をしなければならない。ランプドア(後ろの扉)の角に装備が当たって痛まないように、布で覆ったりガムテープを貼る。これも事前に練習して、当日の準備がスムーズに行えるようする。

助教(左端)による指導の様子。この方は、学生である「見習降下長」が見過ごしそうなことを把握しているだけではなく、「これは何のためにやるんだっけ?」などと声をかけ、学生が自分で考えるように促していた。

重量物の投下についても興味があったので、ちょっと見せていただいた。ただ、この日行われていたのは、教育で使う教材の準備だった。降下長は、降下員の安全以外にも、投下する物の安全もチェックしなければいけないので、この教育の半分くらいは重量物投下に関するものになっている。ちなみに重量物投下とは、火器や車両、食料などを航空機から投下することを指す。軽装甲車などの本当に重たいものは、重量物用のパラシュートを四つ組み合わせて投下するそうだ。

荷解きを早くする工夫、その2。ストラップを固定している水色のヒモは、テンションをかけている金具のレバーを持ち上げると切れるようになっている。1秒でも速く!そんな気持ちが伝わってくる。

訓練施設の紹介

習志野駐屯地内にある訓練施設も見てゆこう。

まずは、これ。「跳出塔」航空機から飛び出す訓練に使われる塔。人が一番恐怖を感じると言われている11メートルくらいの高さがある。この日は、空挺団を希望する人たちの適性検査に使われていた。

「操縦訓練場」丸いパラシュートでも向きを変える操作が可能なので、その訓練をするための設備。

C-2輸送機を模した訓練設備。輸送機自体が新しいので、訓練設備も新しい。この輸送機に乗せてもらったことはないけど、この施設のおかげで機中の広さを実感できた。

取材2日目

いよいよ降下の当日。演習場に着くと、昨日もやっていた着地訓練が行われていた。この訓練は、降下当日も実施することが義務付けられている。基本動作は、何度もやるのだ。

廃用機で練習した機体の養生を、実機で行っている様子。養生と同時に、降下長の使う安全帯の長さも確認していた。ヘリコプターからの降下訓練時、降下長は降下しないのだ。

降下するタイミングの指示は降下長が行う。訓練でもそれは同じなので、まずは見習降下長全員がヘリコプターに搭乗し、演習場での降下ポイントを確認する。写真は、見習降下長たちがヘリコプターに向かってゆく様子。

いよいよ僕が乗せてもらう1番機の離陸時刻が迫ってきた。待機していた場所から200メートルほど離れた発着地点まで移動だ。

ところで、降下員が背負っているパラシュートには黄色いヒモが付いている。これは、自動索と呼ばれるもので、この先端を機体に繋げておくと、降下した時に引っ張られてパラシュートが自動的に開くようになっている。また、予備のパラシュートは自分の判断で開く仕組みになっていて、メインのパラシュートがおかしいと感じたら、ためらうことなく使うように指示されていた。

ローターが巻き起こす風やエンジンからの排気熱を肌で感じる。否が応でも高まる緊張感の中、いよいよ搭乗だ。白いヘルメットを被った助教の皆さんに続いて機内へと進む。

機内の様子。画面の左側は見習降下長と助教。右側が降下員。それぞれが所定の位置に立ち、緊張がマックスまで高まる。

さて、ここで悲報です。いよいよ離陸かと思っていた、その瞬間、なんと強風のため降下中止!

風が強いと、降下地点から離れてしまったり着地の時に危ないので、実行できないのだ。まあ仕方ない。安全第一。天気には勝てない。ガックリしながら、待機場所まで戻る。訓練再開のためには、30分ごとの観測データが、2回連続で安全基準を満たさなければいけない。つまり、最短でも1時間は再開の見込みがない。その後、「可」と「否」の観測データが交互に届き、最終的に、この日の訓練は中止となった…。

再開を待つ間の食事風景。配給された食事を食べる人、家から持ってきたお弁当を食べる人。降下の際の食事には特段のルールがない。食べられる時に食べておく。

インタビュー

ここからは、降下長の教育を受けていた、相川優樹2尉と松下義基3曹のインタビューをお届けしよう。

なぜ自衛隊に?なぜ空挺団に?

相川さん
「うちは祖父も父も自衛隊員で、いとこにも隊員がいますが、レンジャーや空挺団を経験した人はいなくて、『空挺団はすごい』という話だけは聞いていたので、どうせなら空挺団に行ってみようと思いました。」

松下さん
「高校を卒業して就職する時に、人のために働きたいと思いました。体を動かすことも得意でしたので、いろいろ考えた結果、自衛隊に入りました。陸上自衛隊を選んだのは、高校の先生に陸上自衛隊の出身者がいたからです。入隊後は、最初に配属された部隊でレンジャーの教育や助教の経験をさせてもらいましたが、その時に将来のビジョンが見えてきて、このままじゃつまらないと思ってしまいました。そこで、空挺団のような精強な部隊で自分がどこまで通用するのか挑戦してみようと思い、希望を出しました。」

相川さんは研修期間中の学生長を任されていた。この写真は、伝達事項を他の研修生に伝えている時の様子。

実際に配属されて、どんな印象だった?

相川さん
「事前にイメージしていた通りでした。意識の高い人が多いですし、厳しい訓練や緊張感もあります。訓練以外の時間でも自発的にトレーニングや勉強をしている隊員も多いです。作戦はみんなで行うのですが、降下する時など自分で判断しなければいけない場面がありますので、自主性が培われてゆくのだと思います。」

辛かった訓練とは?

相川さん
「訓練検閲という部隊の評価をされる演習の時に、自分が70名くらいの隊員を指揮しなければいけない状況になったことがありました。その時は、まだ知識も能力も不足している状態でしたので、10日間ほどの訓練中、刻々と変わってゆく状況に対応するのが大変でした。今思えば、能力を向上させるための良い経験になったと思います。」

松下さん
「土砂降りの雨が降る中、4〜5人の部下を率いて陽動作戦をしなければいけないことがありました。限られた時間の中で任務を達成しなければいけないのですが、1週間くらいの訓練でしたので荷物もかなり多く、途中で心が折れそうな部下も出てきました。彼らには『とりあえず、あそこまで行こう!』などと声をかけつつ、自分自身も奮い立たせて乗り切るのが大変でした。」

松下さんが何かを説明している様子。

空挺団に向いている人とは?

相川さん
「体力や根性も大切だと思いますが、個人的に重要だと思っているのは、意志の力です。隊員の中には、高所恐怖症の人もいますし、学生の時に運動部に所属していなかった人もいます。ですから『空挺隊員になりたんだ!』という意思が大事だと思います。また、環境が人を育てるという面もあると思っていて、その点では、上司や同僚も優秀な人が多いですから環境は整っています。」

松下さん
「一つの訓練をやるにしても、目標や目的を理解している人が多いと思います。自分もここに来る前は、なんとなくついて行けばいいやって思うこともありましたが、ここでは自分で考えるようになりました。」

やりがいとは?

相川さん
「初めて経験したことや目標を達成した時にやりがいを感じます。」

松下さん
「こちらに来てから自分が指揮する立場になることも多くなって来ましたから、自分の意図がうまく伝わって実現できた時には、やりがいを感じます。」

今の課題とは?

相川さん
「部隊の指揮に関わる戦術などの知識が少ないものですから、これから身につけようと思っています。」

松下さん
「指揮をすることも増えましたが、教育に関して任されることも増えて来ました。ただ、自分の専門分野以外では、知識が浅くアウトプットできるレベルに達していませんから、もっと勉強しなければいけないと感じています。この降下長教育でも毎日勉強しているんですけど、助教の方達のように教えられるかというと全くそんなことはありません。まだまだ勉強です。」

教官からの訓示を受けていた時の一コマ。

読者に伝えたいこととは?

相川さん
「空挺団は特殊ですが、自衛隊にはいろいろな職種があって、必ずしも体力が必要なわけではありません。また、昔と違ってパワハラ気質みたいなのは無くなっていますし、教育の環境も整っています。もし、就職しようか迷っている人がいたら、ぜひ、一度来てみて下さい。」

松下さん
「日本は平和ですが、社会情勢は自分が入隊した頃とは全く違って来ています。何か起こった場合は、命を懸けて行かなければいけませんし、そのために自分たちが居ると思っています。自衛隊には、いろいろな仕事があり教育が充実しているなど良い面がたくさんあります。しかし、覚悟が必要な面もあると思っています。」

おわりに

自衛隊の取材に行く度に知り合いが増える。それは、防衛が他人事ではなくなることを意味する。自分は、写真を撮ることしか能のない人間だし、1人で出来ることなんて大したことじゃない。でも、考えて行動するのと、何も考えずに行動するのとでは結果が違ってくると思っている。彼らが実戦に行くことなく現役を終えるためには、どうすればいいのか。自衛隊を取材した後には、いつも考えてしまう。

写真と文:西澤丞 取材は、2026年5月に行いました。