製材所って、どんなとこ?現場で仕事の内容を聞いてみた。

ムラ取り。乾燥によって発生したソリや歪みを取る工程。

製材業 小井土製材株式会社 群馬県甘楽郡下仁田町

はじめに

私が住んでいる群馬県は山に囲まれたところなので、ドライブをしていると、時々製材所のそばを通ることがある。どの製材所も、中の様子が見えそうで見えず、どうにも気になる存在だったので、思い切って行ってみた。

製材所の敷地内、林業の現場や原木市場から購入した木材の山
林業の現場や原木市場から購入した木材の山。

小井土製材さんって、どんな会社?

今回、お邪魔した製材所は、下仁田ネギで有名な下仁田町にある小井土製材さん。国道254号線からも見えるので、以前から気になっていたところのひとつだ。「無駄なく一本の木を使いきる。」ことを標榜している会社で、創業は、昭和29年。群馬県産材の製材量は、県内一だという。お話をうかがったのは、3代目社長の小井土義治(51)さん。突然現れた写真家を名乗る男(私)にもていねいに対応してくださったフレンドリーな方だ。

製材所で使われている帯のこ
帯鋸の刃。目立て業者に整備してもらったものを、一日に一回程度の間隔で交換する。

会社を継ぐことに抵抗はなかったのか?

家業を継ぐというのが、自分にとっては、ピンと来なかったので、そこから聞いてみた。

「ここに入ったのは、高校を卒業してから。高校生の頃、バブルが絶好調で人手が足りずに母親がトラックで配送してたくらいなんですよ。なので、普通なら上の学校へ行ったり、他所に就職したりってことも考えられますけど、それどころじゃない。呼び戻されたって感じです。」

小井土さんが手伝い始めた1980年代半ばは、3、4人で仕事をしていたそうだ。

「最初は、この木、なんの木?って感じから始まったんですが、興味があったんで、すぐに覚えました。」

子どもの頃から製材の仕事に興味があって、最初から継ぐつもりだったとのこと。

乾燥機のボイラーで燃やされている端材
乾燥機のボイラーで燃やされている端材。ボイラーの燃料は、この製材所内で出たものを利用している。

製材の工程について。

「うちで製材するってなると、まず…」ってことで、工程を教えてもらった。

1、皮むき 丸太の皮をむく。
2、製材 板材と角材にざっくりと製材する。
3、乾燥 主に人工乾燥で行う。
4、ムラ取り 乾燥した後の曲がりや歪みなどを、切ったり削ったりして修正する。
5、寸法ぎめ プレーナーと呼ばれる機械で仕上げを行う。

点検作業中に撮影させてもらった、木の皮をむく機械の内部。銀色の部分が刃だ。
木の皮をむく機械から木材が出てきたところ。
製材の工程。木は、まん丸ではないので、中心を見極めるのが難しい。
乾燥機。扉が開いている状態。
ムラ取り。この工程では、4つある面のうち2面を切って、直角を出す。
寸法ぎめ。いわば、カンナがけの工程だ。

乾燥については、小井土さんの場合、乾燥機を使って行う人工乾燥が中心だ。

「自然乾燥じゃなきゃダメってものもあるんですけど、自然乾燥は、ムラが出来ちゃうわけですよ。積んでおくと外側と中では全然違う。同じにならないんです。焼き鳥みたいに一本一本ひっくり返してなんて、やってられないんで、人工乾燥でやった方が、品質が安定するんです。」

ちなみに小井土製材さんでは、製材した時の端材や木の皮などは、乾燥機の燃料とし、おがくずは、キノコを栽培するための菌床として販売している。つまり、木の廃棄物は、ゼロだ。「無駄なく一本の木を使いきる。」とは、こういうことだったんだ。

むいた木の皮の集積所。
ボイラーの外観。ボイラーには、20分ごとに燃料を追加する。
乾燥機の中は、こんな感じ。

林業との連携について。

先日、取材させてもらった林業の現場から小井土製材所さんまでは、直接、木材が運ばれているので、その辺りを聞いてみた。

「今、日本の木の需要って、増えてるんですよ。じゃあ、今までなんで日本の木がダメだったかっていうと、量が間に合わねえっていうのもあったんです。半分人力みたいなので、ボチボチやってたんじゃ、需要に対して追っつかねえんですよ。それがだんだん高性能林業機械とかが普及してきたので、一人当たりの生産量が増えてきたんです。そうすると、今度は、トラックが間に合わない。」

今までは、林業の現場 → 原木市場 → 製材所という順番で材木が動いていたそうだが、製材所の数が減って規模の大きなところしか残っていないので、市場に運ぶ意味がなくなって来た。また、木を運ぶトラックは、特殊車両なので、トラックならなんでもいいわけじゃない。そのトラックの運搬が追いつかないのであれば、運ぶ回数を減らせばいい。そこで、県などの方針により、林業の現場と製材所が直接やりとりをするようになったとこのと。 (林業については、「森で働く仕事、林業の現場に行って来た。前編」と同「後編」を参考にしてください。)

販売先は?

「うちは、そこが広くて、一般の人から商社まで、全部だね。」

インタビューに先立って、アメリカに輸出する製品(家の周囲に巡らせるフェンス材)を作るための設備を撮影させてもらったので、その辺を詳しく聞いてみた。

輸出するフェンス材を作るために新設した工場内。
この工場では、二人で作業していたものが、一人で出来るようになった。

「あれは、ここ2年くらいやってる仕事。毎月、毎月、生産量が新記録。」

えっ、ちょっと待って。木材って輸入が中心じゃなかったの?

「みんなそう思ってますよ。僕だって3年前は、海の向こうに杉を持ってくなんて、思いもしなかった。」

なぜ、急に需要が増えたのか?アメリカでフェンスの材料として使われるのは、レッドシーダーという木で、日本でもウッドデッキなどの材料として扱われている。その木が植えられているのは、アメリカ西海岸のカナダとの国境近くの限られたエリアでしかない。その上、成長が遅いので費用対効果が合わず、新たに植える人がいない。結果として、資源量が減って、価格が上がって来ていた。そんな中、7〜8年くらい前から、中国の企業が、日本のB級品の木材を仕入れて加工し、アメリカに輸出をしていたのだという。その後、中国とアメリカの貿易摩擦などもあり、日本の商社が、日本からアメリカに直接、販売することを思いつき、小井土さんに話を持って来たようだ。「ようだ」と書いているのは、商社に取材をしていないため。

さて、商社がアメリカ向けの製品を作ろうと企画しても、どこの製材所でも作れるわけではない。規格が違うので、製材するための機械も違うからだ。小井土製材さんは、アメリカ向けの仕事を始める前に、国内向けの2×4の事業を始めていたので、「じゃ、やるか!」となったそうだ。

製材所の乾燥機の内部
乾燥機の中に、びっしりと並べられた木材。乾燥機では、100〜150時間をかけて乾燥が行われる。

将来的には、フェンス以外のものも輸出するんだろうか?

「フェンスが、間に合ってねえから…。アメリカの住宅関連が、好調なんですよ。2倍でも3倍でも作ってくれって言われるけど、無理ですって、断ってる。」

従来の仕事も続けているので、輸出品ばかりに人員を投入する訳にはいかない。そこで、最近導入した人手のかからない機械に加え、新たな機械の増設を検討中とのこと。

次の工程のために、木の長さを調整しているところ。
板材のムラ取り作業。
細い棒材を作っているところ。

輸出向けの製品以外で取り組んでいるものは?

輸出向け以外では、国内向けの2×材の生産にも取り組んでいるという。国内の建築材のマーケットを取りあうのではなく、ほぼ100%を輸入していた2×材のシェアを取りにゆく発想だそうだ。なるほど。

「2×材。すっげえ扱い量なんだから。それの0.0何%とかでも、我々にとっては、すっごい量。それでいんじゃないかと思ったんですよ。いけるかどうかわかんねえけど、やってみるかって。ただ、安いから使ってくれじゃ、面白くない。今までの2×材って、木の選択肢なんてなかったんですよ。売ってねえんだから。そこで、例えば、100円プラスすれば、杉が使えるよ。200円出せば檜が使えるよって。家なんて一生もんなんだから、5万、10万高くなるって言ったって、買ってくれる人がいるんじゃねえかって。そもそも少数でいいんですよ、我々は。大多数に供給しろって言っても無理なんで。で、やってみたら、やっぱりお客さんが、いたんですよ。」

中小の工務店さんや建設会社にとっては、「群馬県産の〜」みたいな謳い文句が大手に対する差別化戦略になっていて、大手にとっては地産地消的なイメージ戦略にもなっているようだ。

製材所内の木材の仮置場
木材の仮置場。ボタン操作でラック状の棚から木材が出てくる。

そんな小井土さんにとって、仕事のやりがいとは?

「お客さんの無理難題に応えること。設計士さんたちは、なんでもあると思うから、どんどん絵を書くじゃないですか。高機能、高性能、腐りづらい木、燃えない木とか。じゃあ、実際、どこが出来る?ってなるじゃない。ノウハウを含めて。うちは、なんでも出来ちゃうんで、困った時は、小井土に相談するようになってる(笑)世の中にねえようなもの。そういうのが得意なんですよ、うちは。」

優しい語り口なのに、時々べらんめい調が混じる小井土さん。一番印象的だったのは、

「会社が傾くような挑戦はダメだけど、そうじゃなきゃ、とりあえずやってみる。」

というお話。「なんかあったらどうするんだ?」と考える人が多い中で、一緒に仕事をしたいって思うのは、こういう人だよね。

写真と文 西澤丞 このインタビューは、2020年12月に行いました。